電子カルテとは?種類や現状からメリット・注意点まで一挙解説
現在、電子カルテの導入を検討している医院もいらっしゃるのではないでしょうか。電子カルテは全体診療所の約50%以上で導入されており、今後、医療DXの推進によってより多くの医療機関への導入が予想されています。しかし、具体的なメリットや注意点を把握したうえで、導入の検討をしたい医院も多いでしょう。
本記事では、電子カルテに関する基礎知識から種類、メリット、注意点まで詳しく解説しています。電子カルテの導入検討の一助として、ぜひご覧ください。
目次[非表示]
- 1.電子カルテとは?
- 1.1.紙カルテとの違い
- 1.2.レセコンとの違い
- 1.3.電子カルテの機能
- 1.4.電子カルテに求められる要件
- 1.5.電子カルテの画面の説明
- 1.5.1.受付画面
- 1.5.2.診察画面(診察履歴、SOAP、セット登録)
- 2.病床・診療科ごとの電子カルテの傾向
- 3.電子カルテの種類
- 4.電子カルテの普及状況と将来像
- 4.1.電子カルテ普及率の現状
- 4.2.国が進める電子カルテの将来像
- 5.電子カルテで得られるメリット
- 5.1.業務が効率化する
- 5.2.カルテ棚のスペースを減らせる
- 5.3.院内の情報共有が容易になる
- 6.電子カルテを導入する際に気をつけたい注意点
- 6.1.費用がかかる
- 6.2.操作の慣れが必要
- 6.3.停電時の対策が必須
- 6.4.セキュリティ対策が必要
- 6.5.紙カルテからの移行手順の検討が必要
- 7.電子カルテのメーカー選びにお悩みの方へ
- 8.まとめ
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電子カルテとは?
電子カルテとは、診療録や患者の情報をパソコンなどの端末で記録・管理できるシステムです。従来、医療業界では紙カルテが長く使われていましたが、保管場所の問題や業務効率の観点から、電子カルテが注目されるようになりました。
電子カルテの導入により、医師をはじめ、多くの職種で業務が効率化されています。近年では、多くの電子カルテが存在し、提供される機能もさまざまです。たとえば、診察履歴からワンクリックでDoできたり、オーダー内容をテンプレート化できたりと、入力の負担が軽減される機能があります。
しかし、現在でも紙カルテを使用している医療機関も少なくありません。少子高齢化のなかで人手不足が進み、医療従事者の働き方改革が求められる中で、電子カルテの導入はより効果を発揮する状況にあるといえます。
紙カルテとの違い
紙カルテのメリットとして、紙代以外の初期費用や月額費用がかからず、停電時にも利用できる点が挙げられます。
一方で、他人の目に触れたくない情報であっても誰でも参照できるため、情報漏えいのリスクがあります。また、長年に渡って医院を運用していると、患者数に伴って紙カルテの数が増え、保管場所の確保が多くの医療機関の悩みの種となります。
加えて、水害などの自然災害によって紙カルテが損傷し、閲覧が困難になるケースも否定できません。
電子カルテは、保管場所が不要、かつ、他院からの紹介状や検査結果などのデータ取り込みが簡単です。また、業務負担を軽減する機能によって、診察の助けにもなります。
しかし、停電時には利用できなかったり、紙カルテと比べて費用がかかるなどのデメリットも挙げられます。また、ウイルスによる攻撃に備える必要があり、内部不正にも気を配らなければいけません。
双方に違ったメリットとデメリットが存在するため、それぞれの特性を考慮し、自院にとって最良の選択が重要です。
レセコンとの違い
電子カルテとレセコンの大きな違いは「使用目的」にあります。電子カルテは主に「診療情報をコンピューターに入力し、電子データとして管理・保存する」ために存在します。一方、レセコンの目的は「診療報酬の請求業務」です。
また、電子カルテとレセコンでは使用者も異なります。電子カルテは主に医師が使用し、患者の診療情報を記録・管理します。一方、レセコンは主に医療事務が診療報酬の請求業務に利用します。
電子カルテの機能
電子カルテは、医師が行った診療録を電子データとして保存するシステムです。具体的には、診療経過や処方、検査結果の履歴が記録され、会計情報や紹介状、診断書などの文書も一元的に管理されています。
電子カルテを活用できれば、患者の診療情報が効率的に管理され、医療の質や安全性の向上に寄与します。
電子カルテに求められる要件
電子カルテには、「電子保存の3原則」と呼ばれる要件が求められます。電子保存の3原則は以下のとおりです。
- 真正性
- 見読性
- 保存性
真正性は、正しい情報を記録し、改ざんや削除などがされないようにルールを設けたり、監査したりするために必要な要件です。
見読性では、電子カルテの情報を必要に応じて見やすく出力するための要件が定められています。また、電子カルテに他院からの紹介状や検査結果のデータなどを見やすい状態で格納する意味も含んでいます。
保存性は、真正性や見読性を担保する要件です。バックアップ体制をとり、ハッキング対策や停電時の対応など、必要な時に電子カルテが閲覧できるように点検が必要です。
参考:厚生労働省「医療情報システムを安全に管理するために」
電子カルテの画面の説明
電子カルテには、受付画面や診察画面など円滑な診療運営に欠かせない機能が備わっているため、ぜひ参考にしてください
受付画面
受付画面は、電子カルテの中でまず最初に見る画面です。一般的には、予約患者や当日の受付患者の一覧が表示されます。
予約患者の場合、来院予定時刻や予約内容などが確認でき、スムーズな受付が可能です。また、当日の受付患者についても、受付済みか否かや待ち時間などが把握できます。
受付画面を通して、医療スタッフは患者の来院状況を的確に把握し、効率的な診療が可能となります。
CLINICSカルテの受付画面
診察画面(診察履歴、SOAP、セット登録)
診察画面は、電子カルテにおける最も重要な領域です。一般的には、以下の画面と内容で構成されています。
CLINICSカルテの診察画面
画面 |
内容 |
診察履歴 |
|
SOAP |
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処置行為 |
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セット・オーダー |
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病床・診療科ごとの電子カルテの傾向
病床数や診療科によって、導入している電子カルテは異なります。ここからは、病床・診療科ごとの導入傾向を詳しく解説します。
大病院
400床以上の大病院では、大手メーカー(例: 富士通、NECなど)のオンプレミス型システムが多く使用されています。
理由として、大病院では働くスタッフの数が多く、かつ、さまざまな職種が部門システムで運用しており、連携するシステムが多岐にわたるためです。つまり、情報連携のしやすさが使い勝手に大きな影響を与えるといえます。
そのほか、院内に専用のサーバー室を設けて、メーカーの専任担当者がシステムを運用・管理する仕組みを整えている場合が多くみられます。メーカー担当者とのやりとりも頻繁に交わされたり、システム操作に関するヘルプデスクを設けたりと、サポート体制を重要視している点も特徴です。
中小病院
中小病院では、大病院に比べて電子カルテの規模は小さくなりますが、オンプレミス型のシステム選択が一般的です。なお、中小病院ではリハビリや訪問先との連携が重要視されています。
有床診療所
有床診療所では入院の機能が必要なため、中小病院向けの電子カルテを利用するか、有床診療所専用の電子カルテを利用するケースがほとんどです。ただ、病院ほど多機能である必要は必ずしもありません。
無床診療所
無床診療所では、外来診療に特化した電子カルテが一般的です。病院や有床診療所とは異なり、入院に関する機能が不要となり、外来患者のデータ管理が中心です。ただし、眼科や婦人科など、診療科の特徴に対応した機能を求める傾向があります。
主に、オンプレミス型とクラウド型の2種類がありますが、近年開業した診療所ではクラウド型が多く選ばれています。
なぜなら、オンプレミス型の導入には一定の初期投資が必要であり、新規開業の場合には負担が大きいためです。クラウド型は導入コストが抑えられるため、新規開業時には魅力的な選択肢となっています。
精神科(主に病院)
精神科については、専用の電子カルテを用いる医療機関が多くみられます。精神科に特化した電子カルテに備わっている機能は以下のとおりです。
機能 |
特徴 |
診療履歴 |
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サマライズ |
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心理検査オーダー |
基本的な心理検査項目が事前に用意されているため、そのまま検査が実施できる |
診察前の短い時間でも、患者の状態を的確に把握できるような設計が特徴です。また、地域医療の連携を考慮して、クラウド型が多く採用されています。
電子カルテの種類
電子カルテは、オンプレミス型・クラウド型・ハイブリッド型の3つに分類されます。それぞれの特徴を解説するため参考にしてください。
オンプレミス型
オンプレミス型電子カルテは、自院内にサーバーを設置し、データを管理するシステムです。医院ごとにカスタマイズできるケースが多く、柔軟性が高い点が大きなメリットです。
一方で、コストの面ではデメリットがあります。院内にサーバーを設置するため、相応の初期投資が必要であり、約4年に一度の更新費用がかかるケースもあります。
さらに、サーバーの故障や不具合によって重要なデータが失われるリスクがあるため、緊急時に備えたバックアップは必要不可欠です。
クラウド型
クラウド型電子カルテは、サービス提供者が運用するサーバーにインターネットを介してデータを保管するシステムです。最大のメリットは、インターネット環境があれば、どんな端末でも利用できる点です。
また、導入費用と月額費用が比較的安価な傾向にあります。ただし、電子カルテメーカーのサーバーにデータを預けるため、細かなカスタマイズが難しい点はデメリットです。
ハイブリッド型
ハイブリッド型電子カルテは、クラウド型とオンプレミス型が融合したシステムです。オンプレミス型を基本に、オプションとしてクラウド機能を追加すると、オンプレミス型サーバーに障害が発生してもサーバーの切り替えができるようになります。
通常の診療はオンプレミス型として稼働するため、インターネット回線やブラウザの影響を受けません。同時にクラウドサーバーへデータを保存しており、オンプレミス型で利用している際にトラブルが生じて利用できなくなった場合には、クラウド型に切り替えて引き続き利用が可能です。
ただし、ハイブリッド型電子カルテは、オンプレミス型にクラウド型をオプションで追加するため、導入費用が高くなる点はデメリットです。機能が充実している反面、具体的なコストを算出しながら導入を検討する必要があります。
電子カルテの普及状況と将来像
電子カルテの普及状況と、今後国が進めていく将来像について詳しく解説していきます。
電子カルテ普及率の現状
厚生労働省の「電子カルテシステム等の普及状況の推移」によると、令和2年現在の電子カルテの普及率は、以下のようになっています。
- 一般病院:57.2%
- 一般診療所:49.9%
病床規模別における電子カルテの普及率は、以下のとおりです。
- 400床以上:91.2%
- 200〜399床:74.8%
- 200床未満:48.8%
病院と診療所、病床規模によって普及率は異なりますが、約50%以上の医療機関で電子カルテが導入されています。
出典:厚生労働省「電子カルテシステム等の普及状況の推移」
国が進める電子カルテの将来像
今後、医療のDX化を見据え、全国的に電子カルテの情報を閲覧できる仕組みが検討されています。新しいサービスでは、以下の情報が「電子カルテ情報共有サービス(仮称)」として提供される予定です。
- 医療機関間での文書情報の電子送受信
- 全国の医療機関・薬局で患者の電子カルテ情報(6情報)の閲覧
- 患者本人が自身の電子カルテ情報(6情報)を閲覧
本サービスにより、健診結果報告書や診療情報提供書、退院時サマリなどの文書情報、そして傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査(救急、生活習慣病)、処方といった6つの情報が紹介先の医療機関や薬局に共有されます。同時に本人も自身の情報を閲覧できるため、より効果的な医療を提供できるようになるでしょう。
参考:厚生労働省「電子カルテ情報共有サービス(仮称)について」
電子カルテで得られるメリット
自院に電子カルテを導入して得られるメリットはさまざまです。中でも、今回は3つのメリットに焦点をあてて解説します。
業務が効率化する
電子カルテは、多くの補助機能が搭載されています。入力の負担が減らせるため、医師だけでなく、看護師や事務スタッフの文書作成や会計業務を効率化できます。
例えば、多くの電子カルテには、処方・検査テンプレートや定型文登録などの機能が用意されており、医師の診察時の手間が削減されます。
また、WEB予約やWEB問診、精算機と連携することで、電子カルテを基軸として患者情報を書くシステムに連携し、院内の業務を効率化することができます。
さらに、レセプトチェック機能やレセコンとの連携により、算定漏れのミスが減少します。電子カルテの導入は医療機関全体の業務効率を向上させる重要な手段といえます。
カルテ棚のスペースを減らせる
紙カルテは、一定の保管スペースを確保する必要があります。しかし、クラウド型電子カルテであれば、パソコン1台のみでデータを保存することができます。オンプレミス型電子カルテであれば、多くのカルテ情報を保存できる「サーバー」と呼ばれる装置のみで済むため、保管場所を増やす必要はありません。
カルテの所在が分からなくなる心配もなく、長期間にわたってデータ保管が可能です。なお、完全に電子化するのではなく、必要な紙カルテだけを残し、保管スペースを削減するなど、少しずつ電子カルテに移行する選択肢もあります。
院内の情報共有が容易になる
紙カルテの場合、手元にカルテがなければ、リアルタイムで情報を確認できません。一方、電子カルテであれば、診察室や受付などの違う場所からでも複数人がカルテを確認することができます。
データ検索も可能なため、時間をかけずに編集が可能です。また、診察室と受付で同じ画面を見ながら確認ができるため、正確性も向上します。
電子カルテを導入する際に気をつけたい注意点
「予算をかけて電子カルテを導入したのに失敗した」とならないよう、ここでは、電子カルテの導入前に気をつけるべき注意点について紹介するため、参考としてください。
費用がかかる
電子カルテ導入にはさまざまなコストが発生します。主に、初期費用、月額費用、スポット料金の3つを考慮したうえでの予算案作成が必要です。初期費用として発生するものは以下のとおりです。
- ハードウェア:コンピューター、ディスプレイ、プリンタ、ルーター、無停電電源装置
- ソフトウェア:基本的なソフトウェア、チェックソフト、予約機能、統計機能など
- 導入コスト:稼働前の設置作業、各クリニックに合わせたシステム調整、操作の説明、シミュレーション
- データ移行コスト:以前のシステムからデータを移行する際にかかるソフトウェア代と作業費用
- 連携コスト:院内の機器(PACS、予約システム、検査機器など)との連携に必要なソフトウェア費用と作業費用
月額費用は以下2点です。
- 利用料金:クラウドサービスの基本利用料
- ソフトウェア保守料金:稼働後のサポート、法改正に対応する費用
そのほか、運用するなかで必要になるスポット料金として以下の内容が挙げられます。
- 故障時の対応、交換、修理、代替機器の手配
- 機器の設置作業、操作方法の説明
- 稼働開始時の立ち会い、サポート費用
提示された見積に含まれているかどうか、また含まれている場合、具体的にどの項目に含まれているのかを電子カルテの導入前に確認しておきましょう。
操作の慣れが必要
紙カルテから電子カルテへの切り替えは、大きく環境が変わるため決して簡単ではありません。電子カルテは多くの有益な機能を備えていますが、その分、操作方法を習得するには一定の時間がかかるケースもあります。
操作が不慣れな状態で誤った入力や操作をすると、正確に記録を残せないケースも否定できません。操作ミスを防ぐには、導入前のカルテ研修が必須であり、運用に合わせたマニュアル作成も必要になります。
最後に、操作をサポートしてくれる電子カルテメーカー選びが重要です。サポートの内容や体制について満足できるかどうか、担当者に問い合わせて確認しましょう。
停電時の対策が必須
電子カルテは電子機器であり、停電時には利用できません。実際、東日本大震災の際には電子カルテが使用できなくなり、一時的に紙カルテに切り替えるクリニックが多かったといわれています。
停電に備えて、無停電電源装置と呼ばれる停電時に電源を供給する機器の導入を検討する必要もあります。また、一時的に紙カルテを使うための訓練をする病院も存在していたり、電子カルテメーカーもデータの喪失を防ぐためにバックアップ体制を整えたりしています。
停電時の対策が十分なされているかどうかも、電子カルテメーカーを選ぶ際に重要です。
セキュリティ対策が必要
電子カルテ導入に伴い、紙カルテ時代とは違ったセキュリティ対策が必要です。具体的には、ウイルスによる攻撃や、内部からの不正アクセスに備えなければなりません。
特にオンプレミス型の場合、病院内に多量のデータが蓄積されるため、ログの管理やアクセス制限などのセキュリティ対策が必須です。一方、クラウド型の電子カルテはデータを外部に保管するため、より高いセキュリティレベルを持っています。
紙カルテからの移行手順の検討が必要
現在紙カルテを利用している方は、電子カルテへの移行にあたり、即座に紙カルテを廃止するわけではありません。「保険医療機関及び保険医療養担当規則」の取り決めに従い、紙カルテを破棄するには、治療が完了してから5年が経過したカルテを選定する必要があります。
なぜなら、医療過誤が発覚した際、事実調査目的にカルテの開示を請求されるケースがあるためです。そのため、治療が完結してから5年が経過していないカルテに関しては、院内で保管するか、必要に応じて外部倉庫の利用検討が必要です。
電子カルテのメーカー選びにお悩みの方へ
電子カルテには、数多くのメーカーや機能があり、自院に最適な電子カルテシステムを選定するのも一苦労です。そこで、電子カルテのメーカー選びに迷っている方に向けて、CLINICSカルテの詳細な解説を以下の資料で用意しています。
ぜひ具体的な検討の参考材料としてご覧ください。
まとめ
電子カルテの活用には数々のメリットがあり、もっている機能を使いこなせば業務効率が飛躍的に向上します。さらに、カルテの保管スペースを削減できるため、医療モールなどの限られた場所での開業も検討しやすくなるでしょう。
導入時には吟味が必要ですが、電子カルテの導入は業務の効率化に大いに寄与します。電子カルテを導入し、診療に関する業務プロセスの効率化を図ってみてはいかがでしょうか。