クラウド型電子カルテの特徴を徹底解説!メリットや注意点まで紹介します
クラウド型電子カルテは、インターネット回線を通じて提供されるシステムを利用する電子カルテを指します。「場所を問わずカルテが閲覧・編集できる」「オンプレミス型と比べると費用が抑えられる」などのメリットがある一方で、インターネット環境に依存するため「オフライン時の対策を講じる必要がある」といった注意点もあります。
本記事では「クラウド型電子カルテの概要」と「メリットや注意点」を中心に解説します。電子カルテ選びの情報収集にお役立てください。
目次[非表示]
- 1.クラウド型電子カルテとは
- 2.オンプレミス型電子カルテとの違い
- 2.1.サーバーの設置場所
- 2.2.購入するもの
- 2.3.カスタマイズではなく用意された機能を使う
- 3.クラウド型電子カルテのメリット
- 3.1.自宅や往診の出先でカルテを確認できる
- 3.2.オンプレミス型よりも費用がおさえられる
- 3.3.オンラインで素早いサポートを受けられる
- 3.4.数年ごとの更新の手間と費用がかからない
- 4.クラウド型電子カルテの注意点
- 4.1.自由なカスタマイズはできない
- 4.2.オフライン時の対策を講じる必要がある
- 5.クラウド型電子カルテを選ぶ際のチェックポイント
- 5.1.予約システム、WEB問診を電子メーカーが提供しているか
- 5.2.レセコン一体型か連携型か
- 5.3.導入前と導入後のサポート内容の詳細を確認する
- 5.4.「3省2ガイドライン」に準拠しているか
- 5.5.個人情報保護の規格に準拠しているか
- 6.クラウド型電子カルテの導入事例
- 6.1.千葉メンタルクリニック
- 6.2.ひろせ耳鼻咽喉科クリニック
- 7.クラウド型電子カルテの普及状況と将来性
- 8.クラウド型電子カルテメーカー
- 9.まとめ
クラウド型電子カルテとは
クラウド型電子カルテとは、インターネット回線を通じて提供されるシステムを利用する電子カルテを指します。
院内にサーバーを設置する必要がなく、企業が管理するサーバーにアクセスして必要な情報を取得・表示できる点が大きな特徴です。
ソフトウェアを提供するクラウドサービスに該当するため「SaaS(Software as a Service)」とも呼ばれ、近年さまざまなメーカーから発表されています。
クラウド型電子カルテは1999年に登場しており、当初はセキュリティや機能面に関して不安の声もありました。しかし、現在では、セキュリティ面については「SSL暗号化通信」をはじめとしたセキュリティ対策が施され、機能面については多くのメーカーが機能開発を重ねているため、安心して使用できるサービスが増えています。
オンプレミス型電子カルテとの違い
クラウド型電子カルテとオンプレミス型電子カルテの違いは、次の4点です。
- サーバーの設置場所
- 購入するもの
- カスタマイズではなく用意された機能を使う
- 関連システムとの連携は確認が必須
サーバーの設置場所
オンプレミス型電子カルテとの違いの1つ目は「サーバーの設置場所」です。
オンプレミス型は、院内にサーバーを設置して運用します。一方クラウド型は、企業が管理するクラウドサーバーにアクセスしてデータを管理します。
購入するもの
オンプレミス型電子カルテとの違いの2つ目は「購入するもの」です。
オンプレミス型の場合は、多くの場合、電子カルテシステムが入ったパソコンをメーカーから購入します。一方クラウド型は、これまで使っていたパソコンが推奨環境を満たしていれば、引き続き使用可能です。電子カルテのシステム利用料だけで済むため、買い替え費用を別途用意する必要がありません。
カスタマイズではなく用意された機能を使う
オンプレミス型電子カルテとの違いの3つ目は「カスタマイズ性」です。
オンプレミス型はカスタマイズ性に優れています。具体的には、レイアウトやボタンの配置などがカスタマイズできます。
一方のクラウド型は、医療機関側で自由にカスタマイズできません。用意されている機能を使うため、スマートフォンのアプリを使用するイメージに近いといえるでしょう。
クラウド型電子カルテのメリット
クラウド型電子カルテのメリットは、次の4つです。
- 自宅や往診の出先でカルテを確認できる
- オンプレミス型よりも費用がおさえられる
- オンラインで素早いサポートを受けられる
- 数年ごとの更新の手間と費用がかからない
自宅や往診の出先でカルテを確認できる
インターネット環境があれば、場所を問わずに利用できるのが「クラウド型」のメリットです。
そのため「診察終了後に一度帰宅してからカルテを整理する」や「翌日に来院予定の患者のカルテを自宅で確認する」「在宅患者の往診時に、その場で処方箋や紹介状を発行する」といった活用方法もあります。自宅や往診の出先でカルテが確認できるため「適切な処置の実施」や「業務効率化」につながります。
オンプレミス型よりも費用がおさえられる
オンプレミス型は、パソコンのハードウェア費用が含まれているため高額になる傾向があります。一方クラウド型は月額利用料のモデルが一般的であり、ハードウェアの購入・リースが不要なため費用を抑えられます。
オンプレミス型は電子カルテが入っているパソコンを購入する必要があり、1台100万円程度が一般的です。例えば内科クリニックの場合、少なくとも5台のパソコンが必要なため「100万円 / 台 × 5 = 500万円」の概算となります。
一方クラウド型は「利用するユーザー数ごとに費用がかかるのか」「固定金額で何台でも使用できるのか」によって、金額が異なります。内科クリニックの場合は、高価なものでも100万円前後のケースがほとんどです。
なお、オンプレミス型の場合は耐用年数の関係で、約4〜5年ごとに更新が必要です。一方でクラウド型は買い換える必要がないため、使用期間が長くなるほどコストが削減できるでしょう。
オンラインで素早いサポートを受けられる
クラウド型は、1つの拠点からオンライン上でサポートします。Zoomをはじめとしたビデオ通話や電話、メール、チャットなどを通じてサポートするため、トラブルが発生した場合に素早いサポートが可能です。
一方のオンプレミス型は、全国に拠点があるため、担当者がクリニックに来院してサポートするケースが多い傾向にあります。そのため「電子カルテを初めて使用する」といった電子カルテの扱いに不慣れなケースでは、オンプレミス型の方が安心感を感じる場合もあるでしょう。
数年ごとの更新の手間と費用がかからない
電子カルテは「診療報酬」や「薬価」が改定されると、改定内容を反映させるための対応が必要です。
クラウド型の場合、オンプレミス型で生じる数年ごとの更新の手間や費用がかかりません。メーカー側がサーバーを管理しており、更新やメンテナンスもメーカー側が対応します。そのため、常に最新状態の電子カルテが手間をかけずに使用できます。
一方オンプレミス型の場合「CD-ROMを用いて医療機関側で更新する」「メーカーの担当者が訪問してメンテナンスする」などの作業が数年ごとに必要です。
結果、クラウド型ではオンプレミス型で必要となる「メーカーとスケジュールを調整する」「更新費用の支払いをする」などの手間・費用が不要なため、負担なく電子カルテが使用し続けられます。
クラウド型電子カルテの注意点
クラウド型電子カルテにはメリットがある一方で、以下のような注意点もあります。
- 自由なカスタマイズはできない
- オフライン時の対策を講じる必要がある
自由なカスタマイズはできない
上述したとおりですが、クラウド型は企業側でサーバーを管理しているため「自院で使いやすいようにカスタマイズしたい」といった要望には応えられない点に注意が必要です。具体的には、電子カルテの利便性を向上させるための「画面変更」や「ボタン変更」などに個別対応できません。
しかし、多くの医療機関が不便さを感じている部分は、メーカーの判断によって要望が反映される可能性があります。各医療機関に合わせたカスタマイズは難しい一方で、すべての医療機関にとって使いやすい電子カルテを目指してメーカーの医師やエンジニア、デザイナーが検討して改善する体制が取られています。
オフライン時の対策を講じる必要がある
クラウド型はインターネットにつながる環境が必須のため、オフライン時の対策を講じる必要があります。なぜなら、インターネット回線に障害が起きた場合、電子カルテが使用できなくなり診療に支障をきたしてしまうためです。
オフライン時に備えるには、以下のような対策を事前に行いましょう。
- 紙カルテを使った運用手順を取りまとめておく
- モバイルWi-Fiを常備する
- スマートフォンのテザリング機能を準備しておく
クラウド型電子カルテを選ぶ際のチェックポイント
クラウド型電子の電子カルテを選ぶ際には、以下5点をメーカーに確認しましょう。
- 予約システム、WEB問診を電子メーカーが提供しているか
- レセコン一体型か
- 導入前と導入後のサポート内容の詳細を確認する
- 「3省2ガイドライン」に準拠しているか
- 個人情報の規格に準拠しているか
電子カルテを選ぶ際は「操作性」や「費用」などのポイントを意識して選ぶ必要があります。詳しくは以下の資料にまとめているため、電子カルテ選びにお役立てください。
予約システム、WEB問診を電子メーカーが提供しているか
検討している電子カルテメーカーが「予約システムやWeb問診を提供しているか」を確認しましょう。
医療機関を新規開業する場合は「電子カルテ」「予約システム」「Web問診」の3つのシステムを導入しておくと、業務効率化が実現できます。これらのシステムを包括的に提供しているメーカーを選ぶと管理の手間が軽減できます。
反対に電子カルテメーカーが予約システムやWeb問診を提供していない場合、複数のメーカーと契約しなければなりません。すると、担当者が分散して「管理しにくい」「コミュニケーションコストがかかる」などの負担がかかります。
メーカーを統一すると3つのシステムがスムーズに連携できるため、電子メーカーが提供しているサービスを事前に確認しておきましょう。
レセコン一体型か連携型か
クラウド型電子カルテが「レセコン一体型か連携型か」について確認しましょう。
クラウド型電子カルテは「レセコン一体型」と「レセコン分離型」の2種類あります。一体型の場合はレセコンが一体となっているため、レセプトソフトを別途操作する必要がありません。したがって、事務スタッフの受付・会計作業が大幅に削減できます。
反対に、分離型の場合は電子カルテとレセコンをそれぞれ立ち上げて別途操作する必要があります。
CLINICSが提供する「CLINICSカルテ」は「レセコン一体型」です。レセプトソフトを別途操作する必要がないため、事務スタッフの受付・会計作業が大幅に削減できます。
導入前と導入後のサポート内容の詳細を確認する
電子カルテの「導入前」と「導入後」で、どのようなサポートが受けられるのかを具体的に確認しましょう。
電子カルテの導入時はもちろん、導入後も「操作方法の説明」をはじめとしたサポートが必要な場面があります。メーカー側と医療機関側でサポート内容の認識が異なるケースがあるため、以下のポイントをメーカーに確認しましょう。
- 実際に来院してサポートしてもらえるのか、この場合は費用が発生するのか
- 対応できるサポート方法は、メール・チャット・ビデオ通話・電話のどれか
- 操作説明に関してわかりやすい動画や記事、資料が用意されているか
- スタッフ向けの操作説明会を実施してもらえるのか、この場合は費用が発生するのか
- 電子カルテ周辺の業務(ほかのシステムとの連携やネットワーク回線など)をどこまでサポートしてもらえるのか
上記を事前に確認し、自院にとって必要なサポートが含まれているメーカーの電子カルテを選びましょう。
「3省2ガイドライン」に準拠しているか
厚生労働省・総務省・経済産業省が出している「3省2ガイドライン」に準拠しているかを確認しましょう。
3省2ガイドラインは、医療分野における情報システムの情報管理について定めたガイドラインです。具体的には、以下のガイドラインを指します。
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」
- 経済産業省・総務省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン第 1.1 版」
もともとは「3省3ガイドライン」として、厚生労働省・経済産業省・総務省がそれぞれガイドラインを策定していました。2019年に経済産業省と総務省のガイドラインが統合され、現在は「3省2ガイドライン」となっています。
厚生労働省のガイドラインは、医療機関や薬局などを対象として制定されました。医療情報を適切に管理するために、個人情報保護法や医師法、医療法などに基づいて作成されています。
経済産業省・総務省のガイドラインは、電子カルテを提供するメーカーをはじめとした医療情報を取り扱うシステムを提供する事業者が対象です。医療情報を扱うシステムを提供する事業者として、安全管理面で担うべき義務や責任が明示されています。
なかでもリスクマネジメントプロセスに関する部分が詳しく記載されており、システムを運用するうえで起こりうるリスクの特定や分析、評価方法などが詳しく示されています。
上記の「3省2ガイドライン」に準拠しているかどうかで、メーカーのセキュリティレベルが判断可能です。準拠していれば、医療情報の保護対策が徹底されている電子カルテと判断できるでしょう。
出典:厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」
出典:経済産業省・総務省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン第 1.1 版」
個人情報保護の規格に準拠しているか
電子カルテでは、患者の個人情報を扱うため「個人情報保護の規格に準拠しているか」について確認する必要があります。
具体的には、以下のいずれかの規格に準拠しているかを確認しましょう。
- 個人情報を適切に保護・管理する指標である日本産業規格「JIS Q 15001」(通称:プライバシーマーク)
- 情報の取り扱い方を定めた国際的な枠組み「ISMS認証」
- 第三者機関によって情報の取り扱いに関する国際規格「ISO27001」
上記の規格・認証を満たす電子カルテであれば、個人情報を適切に管理できるため安心して利用できます。
クラウド型電子カルテの導入事例
クラウド型電子カルテ「CLINICSカルテ」を導入したクリニックの事例を2つ紹介します。ユーザーの声として参考にしてください。
千葉メンタルクリニック
「千葉メンタルクリニック」は新規開業に際して「クラウド型電子カルテ」と「Web問診」を導入しました。
千葉メンタルクリニックは、精神科・心療内科を診療するクリニックです。1日あたり約20~30名の外来患者が来院しており、3名のスタッフで運営しています。
院長の半田先生は、周囲の先生から「オンプレミス型のサーバーが立ち上がらない」といったサーバーのトラブルがあると聞いていたため、オンプレミス型は視野に入れていませんでした。
また災害時を想定した場合、自院でサーバーを管理するのをリスクと感じていたため、クラウド型を導入しました。
クラウド型を導入した結果「画面の見やすさ」や「予約システムのスムーズさ」を実感しており、共に導入したWeb問診によって事務スタッフの負担も軽減されています。
ひろせ耳鼻咽喉科クリニック
「ひろせ耳鼻咽喉科クリニック」は、新規開業に際して「クラウド型電子カルテ」「Web予約」「自動精算機」「PACS」を導入しました。
ひろせ耳鼻咽喉科クリニックは、耳鼻咽喉科を診療するクリニックです。1日あたり70〜100人の外来患者が来院しており、7人のスタッフで運営しています。
院長の廣瀬先生は、開業時の費用を抑えるためにクラウド型を導入しました。その結果「診療後は自宅に帰宅し、家族と食事したのちにカルテを整理する」といった働き方が可能となりました。
オンプレミス型の場合は、クリニックで作業する必要があるため「診察後に遅くまで残業する」「翌朝早く出勤して作業する」などの負担がかかります。自宅でもカルテの閲覧・編集ができる点は、クラウド型ならではの利点です。
クラウド型電子カルテの普及状況と将来性
ここからは、クラウド型電子カルテの「普及状況」と「将来性」について解説します。
普及状況
日経メディカルOnlineが実施した電子カルテ・ICT導入に関するアンケート2022によると、2022年時点の電子カルテ導入の20%がクラウド型、約80%がオンプレミス型を導入しています。
2021年と比べるとクラウド型は4ポイント増となっており、クラウド型を検討・導入する施設が増えている傾向です。特に「これから開業する方」や「電子カルテを乗せ替える方」にクラウド型が人気となっています。
将来性
2022年5月に自由民主党政務調査会より「医療DX令和ビジョン2030」が提言されました。提言のなかで電子カルテ情報の標準化に関する施策を打ち出しており、国をあげて電子カルテの普及を推進しています。
医療DXにおいて「標準型電子化カルテ」はクラウドに配置され、2030年を目標に医療機関へ提供される見込みです。
中小規模の病院やクリニックは予算が限られているケースが多いため、低価格なクラウド型電子カルテの需要が増加しています。
出典:厚生労働省「第1回標準型電子カルテ検討技術作業班資料に関するアンケート調査説明資料」
クラウド型電子カルテメーカー
クラウド型の電子カルテは、多くのメーカーから発表されています。メーカーごとに異なる特徴があるため、自院に適した電子カルテを比較しながら検討する必要があります。
「電子メーカーのランキング」と「選定のポイント」を以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
まとめ
クラウド型電子カルテは場所を問わずにカルテを閲覧・編集できるうえに、オンライン上で迅速なサポートが受けられます。
クラウド型を導入する医療機関数は右肩上がりの状況で、オンプレミス型と比較して費用が抑えられることも一因となり「これから開業する方」や「電子カルテを載せ替える」に人気がある電子カルテです。
本記事で紹介したクラウド型電子カルテを選ぶ際のチェックポイントを参考に、自院に適したカルテの導入を検討しましょう。