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電子カルテが普及しない理由を再検証|「踏み切れない」に正当な根拠があった

電子カルテが普及しない理由を再検証|「踏み切れない」に正当な根拠があった

執筆監修者:CLINICS事務局

電子カルテ・レセコン

医療DX政策

「導入したほうがいいのはわかっている。でも、踏み切れない」。

電子カルテに対して、こうした本音を持ち続けてきたクリニックは少なくないはずです。そしてその慎重さは、実は間違っていませんでした。高すぎるコスト、診察を止める入力の重さ、そして「データが消えたら」という拭えない不安など。かつての電子カルテにはこれだけの障壁があったからです。ただ、2026年の今は状況が変わっています。テクノロジーの進化、そして制度の大きな転換点が重なり、「踏み切れなかった理由」の多くが実質的に解消されつつあります。本記事では、電子カルテが普及していない構造的な理由を正直に検証しながら、今この時期に改めて検討する価値がある理由をお伝えします。自院にとっての「最善の一歩」を考えるきっかけになれば幸いです。

1.なぜ診療所の半数は、まだ紙カルテなのか

普及率55%が示す、「遅れ」ではない現実

厚生労働省の「令和5年医療施設調査」によると、一般診療所における電子カルテの普及率は55.0%です。令和2年時点の49.9%から着実に上昇してはいるものの、今なお約半数のクリニックが紙カルテで運営しています。一般病院全体が65.6%※1、400床以上の大規模病院では93.7%に達していることと比べると、一般診療所の数値は際立って低く映ります(いずれも令和5年調査)。しかし、この差を「遅れ」と断じることはできません。日本医師会が2025年8月に公表した調査では、紙カルテを使用している診療所の54.2%が「電子カルテの導入は不可能」と回答しています(有効回答数5,466件)。半数を超える医師が「不可能」と感じているという事実は、単なる怠惰や抵抗感ではなく、現場が感じてきた障壁の重さを如実に示しています。まずはその「本音」を丁寧に見ていく必要があります。電子カルテの普及率とシェア動向に関して、より詳しく知りたい方は、下記の関連記事も併せてお読みください。
※1 精神科病床のみを有する病院及び結核病床のみを有する病院を除いたもの
▶ 関連記事:【2026年最新】電子カルテの普及率とシェア動向を解説!クラウド2強時代の選び方とは

2.「踏み切れない」4つの壁

前述したように、導入をためらう理由は感情論ではありません。高すぎるコスト、操作への不安、セキュリティへの懸念、そして院内の人の問題など。それぞれの障壁に潜む根拠を、より詳しく紐解いてみましょう。

1)コスト:「数字が見えにくい」から怖い

かつてのオンプレミス型(院内サーバー型)電子カルテは、初期費用だけで500万円前後に達することも珍しくなく、そこからさらに5年ごとのハードウェア更新費用、月2〜3万円規模の保守費用が積み重なっていきました。問題は金額の大きさだけでなく、「結局いくらかかるのか」が最後まで見えにくい構造にあります。健全な経営を守る立場から、こうした不透明なコスト体系に慎重になるのは無理もないことでした。

2)操作性:「診察が止まる」という恐怖

長年、紙カルテで診療を積み上げてきた医師にとって、その使い方はいわば「職人技」です。問診の流れ、所見の書き留め方、薬の記載順。すべてが体に染みついた習慣です。電子カルテへの移行は、この習慣を根本から作り直すことを意味します。「キーボードを打っている間、患者さんの顔が見られない」という懸念は、医療倫理として真剣に向き合うべきものです。院内スタッフにとっても、レセコン(レセプトコンピューター)と電子カルテの両方を同時に覚える負荷は小さくありません。

3)安全性:「止まったら、どうする」という現実的な問い

医療機関を狙うサイバー攻撃の報道は、デジタル化への不安を煽り続けてきました。「ランサムウェアに感染してデータが使えなくなった」「停電で診察が止まった」。こうしたリスクは患者さんの命に直結しうるだけに、慎重になるのは当然のことでした。「紙なら何があっても診察を続けられる」という安心感は、医療機関として無視できない論拠を持っていました。

4)変化への抵抗:「人の壁」は、コストより手ごわい

導入の意思決定を最も難しくするのは、実は費用でも機能でもなく「人」かもしれません。院長自身のデジタルへの苦手意識、スタッフからの反発、「自分の仕事が変わる」という不安。こうした感情的な障壁は、仕様書や見積書では解消できません。慣れ親しんだやり方を変えることへのストレスは、メリットがわかっていても現実の重さとして立ちはだかります。

3.2026年、「踏み切れない理由」が消えつつある

では、それらの障壁は今もなお立ちはだかっているのでしょうか。テクノロジーと制度の進化により、かつての「踏み切れない理由」はひとつひとつ解消されつつあります。

コストの壁は崩れた「クラウド型が変えた経済構造」

クラウド型電子カルテの普及は、コスト構造を根本から変えました。高額な院内サーバーが不要になり、月額のサブスクリプション形式で最新機能を利用できるため、収支計画が立てやすくなっています。法改正への対応も自動でアップデートされるため、更新費用を心配する必要もありません。さらに国は、小規模なクリニックでも過度な負担なく導入できるよう、クラウド型を前提とした「標準型電子カルテ」の開発を進めており、2026年度中の完成を目指しています。選択肢が広がることで、導入の初期ハードルは今後さらに下がる見通しです。電子カルテの費用感について、より詳しく知りたい方は、下記の関連記事も併せてお読みください。
▶ 関連記事:【2026年版】電子カルテの費用|クラウドへの移行を今すべき理由

入力の壁は解消へ「AIが変えた、診察室の風景」

CLINICSでは2025年11月より「AIアシスト機能」を提供しています。診察中の会話を録音し、AIが自動で文字起こし・要約してSOAP形式のカルテ原稿を生成する仕組みです。モニター利用した医師からは「1日あたり30分〜1時間程度、カルテ入力の時間が短縮した」「手入力と比べ、カルテ入力業務が3分の1から4分の1程度に軽減した」という声が寄せられており、要約精度は「8割〜9割の会話内容を正確に要約できている」と評価されています(メドレー調べ)。Web問診との連携によって患者さんの事前情報が自動転記されていれば、診察室に入った瞬間から顔を見て対話を始めることができます。

安全性の壁は逆転「今や、紙のほうがリスクという現実」

「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」(厚生労働省、令和5年5月策定)に基づき、現在のクラウドサービスは高度な暗号化と複数拠点でのバックアップを標準装備しています。万が一の障害時にもオフラインでの閲覧手段が整っており、紙カルテと同等以上の事業継続性を確保できます。逆に紙カルテは、火災・浸水・紛失のリスクをゼロにはできません。安全性の天秤は、今や電子カルテ側に傾いているといえます。

人の壁を越えるには「システム選びより、メーカー選び」

「人の壁」だけは、テクノロジーが自動的に解決してくれるわけではありません。導入前のスタッフ研修、稼働後の操作サポート、制度改正時の迅速な情報提供。こうした伴走支援の厚さが、現場への定着を左右します。「システムを売って終わり」ではなく、「経営を止めないパートナー」として機能するメーカーかどうかを見極めることが、導入成功の最大の条件といえます。

4.診療報酬改定で変わった「評価の軸」

紙カルテのまま運用を続けると、加算点数で差がつく

2026年度(令和8年度)診療報酬改定では、これまでの「医療DX推進体制整備加算」と「医療情報取得加算」が廃止され、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」が初診料・再診料への加算として新設されました。

区分・点数

主な要件

加算1(15点)

電子カルテ情報共有サービス(CLINS)+電子処方箋の両方を導入

加算2(9点)

CLINSまたは電子処方箋のいずれか一方を導入

加算3(4点)

オンライン資格確認体制のみ整備

例えば月に初診患者が100人のクリニックであれば、【加算1】と【加算3】の差は月約1万1,000円、年間では約13万円以上の差になります※2。今改定のもう一つの大きな変化は、評価の軸が体制の「整備」から実際の「活用実績」へとシフトした点です。マイナ保険証の利用率が算定区分に直結するため、「導入はしている」だけでは【加算1】を算定できない時代になりました。地域の基幹病院との連携からも疎外されるリスクを踏まえると、「導入しない選択」のコストは、これまで以上に可視化されてきた時代といえます。2026年度の診療報酬改定の全体像について、より詳しく知りたい方は、下記の関連記事も併せてお読みください。
※2 あくまでも試算です。実際の算定額はクリニックの規模・患者構成により異なります。
▶ 関連記事:令和8年度 診療報酬改定 攻略ガイド|開業医が必ず押さえるべき7つのポイント

5.自院に合うシステムを選ぶ3つの視点

1)クラウド型が大前提に

まず「クラウド型」を選択の軸に置きましょう。法改正への自動対応、初期費用の圧縮、サーバー管理からの解放。この3点だけでも、従来のオンプレミス型から切り替える価値があります。国の標準化の方向性もクラウド型を前提に進んでおり、今後の制度対応コストを長期的に抑えるうえでも合理的な選択です。

2)レセコン一体型か、連動型か

会計ソフト(レセコン)とカルテが一つになった「一体型」は、入力の手間やデータのずれを最小限に抑え、診察のテンポを落としません。一方、既存のレセコンへの愛着や連携しているシステムがある場合は、カルテとレセコンを別々に持つ「連動型」が現実的な移行手段になることもあります。どちらが正解かは診療スタイル次第です。

3)今の機能より5年後の使い勝手

Web予約・問診・キャッシュレス決済・電子処方箋との連携が柔軟にできるか、将来のサービス追加に対応できる接続口(API)が豊富かどうかも重要な判断軸です。加えて、導入初期の伴走支援・操作レクチャー・制度改正時の情報提供がどこまでカバーされているかを確認しておくと安心です。「システムの品質」と「メーカーとしての信頼性」の両方を見極めることが、長く使える選択につながります。電子カルテの選び方について、より詳しく知りたい方は、下記の関連記事も併せてお読みください。
▶ 関連記事:【開業医必見】失敗しない電子カルテの選び方

6.電子カルテの普及に関するよくある疑問

ここまで電子カルテが普及しない理由を再検証し、理由や解決策を詳しく解説しました。ここではそれ以外でよせられる疑問にお答えします。

Q1. 電子カルテの導入に補助金は使えますか?

使えます。2026年度からは「デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)」が主な選択肢です。従業員数300人以下の医療法人・個人事業主のクリニックが対象で、導入するITツールの種類や申請枠によって補助率・補助額が異なります。詳細は各制度の公式サイトか、導入を検討しているメーカーに確認してみてください。補助金の詳細については、下記の関連記事も参考にしてください。
▶ 関連記事:【2026年最新版】クリニック開業や経営に活用できる!補助金・助成金制度を徹底解説します

Q2. 診療科によって電子カルテの向き不向きはありますか?

電子カルテそのものの向き不向きというより、「汎用型」か「診療科特化型」かの選択が重要です。内科・小児科など問診・処方が中心の診療科は汎用型で十分対応できます。一方、眼科(画像データの取り込みが多い)、整形外科(リハビリとの連携が必要)、精神科(長文の記録が中心)など、診療科特有のワークフローがある場合は、専用機能を持つシステムか、カスタマイズ性の高いものを選ぶことが大切です。まずは無料デモなどで実際の入力の流れを確かめてみるのもよいかもしれません。

Q3. 途中で別のシステムに乗り換えることはできますか?

できます。ただし、電子カルテのデータ形式は現状まだ標準化されていないため、乗り換え時のデータ移行の難易度はメーカーによって異なります。患者さんの氏名・保険情報・病名・処方履歴などは比較的移行しやすい一方、カルテ本文のデータ移行には費用と時間がかかる場合があります。乗り換えを見据えてシステムを選ぶ際は、データのエクスポート機能があるか、移行実績があるかをメーカーに事前に確認しておくことが重要です。詳しくは下記の関連記事もご参照ください。
▶ 関連記事:電子カルテのデータ移行は難しい?乗り換えるタイミングや手順、確認ポイントを解説

Q4. 電子カルテを導入するとレセプト請求はどう変わりますか?

レセコン一体型の電子カルテであれば、診察入力と同時にレセプトデータが自動で生成されます。保険算定のルールに照らした自動チェック機能により、病名漏れや算定ミスを事前に検出できるため、返戻(差し戻し)や査定(減点)のリスクを大幅に低減できます。月末月初の集中作業も分散されるため、事務スタッフの負担軽減にもつながります。レセプト業務の仕組みについて詳しくは下記をご参照ください。
▶ 関連記事:【2026年最新】レセコンとは?電子カルテとの違いや連携のメリットなど徹底解説!

Q5. 院長が変わっても電子カルテのデータは引き継げますか?

引き継げます。事業承継・医院継承の場合、カルテデータの引き継ぎは個人情報保護法の適用除外に該当するため、患者さんの同意なく新しい管理者に引き継ぐことができます(個人情報保護法第27条5項2号)。クラウド型電子カルテであれば、データはサーバー上で管理されているため、院内機器の入れ替えなしにスムーズな承継が可能です。なお承継後は、カルテの管理責任が新しい院長に移行します。承継に関する詳細は下記もあわせてご覧ください。
▶ 関連記事:クリニックの事業承継|手続きの流れと承継する際のポイント

7.まとめ

紙カルテを手放せなかった理由は、間違いではありませんでした。ただ、2026年の今、その理由の多くは解消されつつあります。コストは透明になり、入力はAIが支え、安全性はクラウドが担う。そして信頼できるメーカーの伴走支援が、人の壁を越える力になります。制度もまた、電子化しているクリニックをより高く評価する方向へ明確にシフトしました。これからの時代に「選ばれ続けるクリニック」であるために必要なのは、急いで何かを捨てることではありません。守り続けてきた診療スタイルを尊重しながら、デジタルの力で現場に「余白」をつくる。そうして生まれた時間は、患者さんとより深く向き合うための時間に還元されるはずです。その未来を共につくる選択肢のひとつとして、CLINICSがお役に立てれば幸いです。

【参考資料】
電子カルテシステム等の普及状況の推移/厚生労働省
令和5年医療施設調査/厚生労働省
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月策定)/厚生労働省
紙カルテ利用の診療所の電子化対応可能性に関する調査(2025年8月公表)/日本医師会
電子処方箋・電子カルテの目標設定等について(令和7年7月1日)/厚生労働省
電子カルテの普及について(令和8年3月12日)/厚生労働省
※本記事の内容は2026年5月時点の情報に基づいています。診療報酬制度や補助金要件は改定・変更されることがありますので、最新の告示・通知等を必ずご確認ください。

執筆監修者

CLINICS事務局

株式会社メドレー

医療現場のDXパートナーとして「医療ヘルスケアの未来をつくる」を理念に、開業を目指す先生や開業医の方々に寄り添う情報を発信しています。お届けするのは、オンライン診療や電子カルテ関連、開業準備を成功へ導くノウハウ、最新の医療制度・法令などさまざま。ITの力で人と医療の現場をつなぎながら、日々の診療やクリニック経営に役立つ知見を丁寧かつ分かりやすくまとめています。ぜひ、理想とするクリニックづくりのヒントとしてご活用ください。

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