医療法人とは?要件やメリット・注意点まで詳しく解説します!
個人で開業している院長のなかには「自院を医療法人化するべきか」「医療法人化するメリットを知りたい」と頭を悩ませている方もいるのではないでしょうか。しかし、全体像を把握しておかなければタイミングを誤ってしまう可能性があります。
本記事では、医療法人に関する基礎知識から必要となる要件、得られるメリット、注意点について詳しく解説していきます。法人化すべきか悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.医療法人とは
- 2.医療法人の要件
- 3.法人化の手続き
- 4.医療法人化で気をつけたい注意点
- 4.1.手続が煩雑
- 4.2.社会保険と厚生年金が必須
- 4.3.解散の難易度が高くなる
- 4.4.利益配分ができない
- 5.医療法人化は避けたほうがよいケース
- 6.まとめ
医療法人とは
まずは、医療法人に関する基礎知識として、以下3点を解説していきます。
- 定義
- 種類
- 個人のとの違い
定義
医療法人とは、病院、医師や歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設、または介護医療院の開設を目的として設立される法人です。(医療法第39条)また、医療法人は、本来の業務に支障がない範囲で、定款や寄附行為で定められた条件に基づき、附帯業務が可能です。
具体的には、医療関係者の養成や再教育、医学や歯学に関する研究所の設置、医療法第39条に定められていない診療所の開設(例:巡回診療所や非常勤医師のいる診療所)などが含まれます。ただし、附帯業務を主として行い、本来の業務を行わなかったり、附帯業務を委託したりするのは、医療法人の運営として不適当です。
医療法人は、基本的には医療や介護に関連した業務を主体としていますが、第42条に定められる範囲であれば、附帯業務を通じて多様な活動も可能です。
出典:厚生労働省「医療法人の業務範囲」(20231031)
種類
医療法人には社団医療法人と財団医療法人の2種類があります。まず「社団医療法人」とは、医療の提供や医学・歯学の研究を目的とし、法人が設立される形態です。医師や歯科医師などの医療関係者が集まって設立され、医療や介護の提供を主な目的として活動します。
一方の「財団医療法人」は、医療の発展や医学・歯学の研究を目指して、法人が設立される形態であり、資金の管理や運用が重要な役割を果たします。厚生労働省の集計によると令和5年の法人数は、社団医療法人が57,643に対して、財団医療法人は362と、社団医療法人が圧倒的に多い状況です。
出典:厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移」(20231031)
個人との違い
個人の開業医と医療法人の主な違いを以下にまとめました。現状との比較としてご覧ください。
項目 |
開業医 |
医療法人 |
---|---|---|
開設者 |
院長個人 |
医療法人 |
資産負債の帰属 |
院長個人の責任 |
法人の責任 |
税金 |
所得税・住民税(消費税) |
法人:法人税・法人市民税・事業税(消費税) |
事業年度 |
1月1日~12月31日 |
任意に定められた事業年度 ※都道府県によっては定められている |
申告期限 |
翌年3月15日 |
事業年度終了の日から2カ月以内 |
納税地 |
診療所の所在地もしくは院長の住所地 |
主たる事務所の所在地(診療所の所在地) |
社会保険 |
選択 |
必須 |
業務範囲 |
基本的に医療のみ |
医療以外の事業も可(※) |
分院開設 |
制限あり |
制限なし |
他業種展開 |
制限あり |
制限なし |
医療法人化すると、事業主体が個人から法人へと変わるため、資産の厳格な分離や社会保険への必須加入などが求められます。
また、医療法人は医療以外の事業展開が可能であり、分院の開設にも制限がありません。事業規模の拡大や多岐にわたる業務展開は、個人とは大きく異なります。
※医療法人の業務範囲<令和4年2月 22 日現在>(厚生労働省)によると、医療法人は本来業務に支障がない限り、医療法第42条各号に定められた付帯業務を行うことが可能です。
医療法人の要件
医療法人を設立するための要件は大きく以下の3つがあります。要件を満たしていなければ申請は受理されず、申請後も維持する必要があるため、事前の確認が欠かせません。
【人的要件】社員・役員構成
- 社員は3名以上必要
- 役員は理事(理事長含む)3名+監事1名が最低ライン
- 役員欠格事由に該当しない者でなければならない
- 理事長は医師または歯科医師でなければならない
- 法人の理事就任予定者や医療機関の職員は監事に就任できない
- 医療機関の管理者は必ず理事に加えなければならない
【施設・設備要件】
- 少なくとも1箇所以上の病院・診療所・介護老人保健施設の設置
- 医療行為に必要な設備・器具の確保
【資産要件】
- 設立後2カ月分の運転資金が現預金で確保されていなければならない。
すべての要件を確認し、適切に準備を進めましょう。
法人化の手続き
医療法人化の手続きは、各自治体によって異なる部分がありますが、以下は東京都の例に基づく一般的な手続きです。
- 「医療法人設立の手引」の入手
- 定款・寄附行為(案)の作成
- 設立総会の開催
- 設立認可申請書の作成
- 設立認可申請書の提出(仮申請)
- 設立認可申請書の審査
- 設立認可申請書の本審査
- 医療審議会への諮問
- 答申
- 設立認可書交付
- 設立登記申請書類の作成・申請
- 登記完了(法人設立)
なお、各自治体によって手続きの詳細や所要時間、必要書類等が異なる場合があるため、地元の役所や関連機関への確認が重要です。また、専門家のアドバイスを受けながら手続きを進めてみてください。
引用:東京都「医療法人設立認可申請の手順」(20231031)
医療法人化することで得られるメリットはさまざまです。主に挙げられるメリットを下記項目順に解説します。
- 節税
- 社会的信用
- 事業継承
- 事業規模の拡大
節税
医療法人化の最大のメリットは、節税効果が高まる点です。通常、開業医の場合、売上から経費を差し引いた事業所得に対して、5%〜45%の所得税がかかります。所得が高くなるほど、納税額も高くなるため、結果的に損をしたような印象を受けている方もいるかもしれません。
一方、法人化すると、該当する税制度が変わり、15〜23.20%の法人税がかけられるようになります。例えば、年800万円の事業所得の場合、開業医では税率23%が適用されますが、医療法人では法人税が適用されて税率15%となります。
単純計算で言えば、約8%の納税額の差が生じます。もちろん、ほかにも社会保険負担や経費の活用など考慮すべき要素はありますが、医療法人化は事業所得にかかる税金を抑える効果がある点は明白です。
社会的信用
医療法人化すると、社会的な信用が向上し、金融機関からの融資を受けやすくなる点はメリットの1つです。
なお、医療法人の設立には都道府県知事の厳格な審査が必要であり、個人資産と法人資産の明確な分離も求められます。よって、要件の達成は、医療法人の信用を裏付ける役割を果たすといえます。また、優れた信用を持つ医療法人は、優秀なスタッフの採用にも有利になるでしょう。
事業継承
医療法人を通じたクリニックの継承は将来の相続対策として有効です。個人事業のクリニックを継承する場合には相続税がかかりますが、出資持分なしの医療法人の内部留保(利益積立金)は相続税の対象外です。
将来的に子どもがクリニックを継承する際、節税の効果があり、事業承継もスムーズに行えます。また、相続時に新たな開設許可が不要である点も大きなメリットです。
事業規模の拡大
医療法人は、病院や診療所、介護施設などを運営するだけでなく、ほかの事業への展開も認められています。例えば、看護師養成所の運営や有料老人ホームの開設などが挙げられます。そのほか、病院内の売店経営や敷地内駐車場の運営なども認定の対象です。
近年、医療と介護・福祉の連携が重視されており、付帯業務の展開を通じて事業の拡大を図る傾向が強まっています。時代のニーズに適した運用ができれば、法人としてのメリットを最大限享受できるでしょう。
医療法人化で気をつけたい注意点
医療法人化を検討するにあたって気をつけたい注意点について、下記の項目に沿って解説します。
- 手続が煩雑
- 社会保険と厚生年金が必須
- 解散の難易度が高くなる
- 利益配分ができない
手続が煩雑
医療法人化した場合、毎年決算終了後3ヵ月以内に都道府県知事に対して事業報告書を提出する必要があります。報告書作成の準備や運営管理は個人よりも複雑になる傾向です。
法人は書類作成に多くの時間を割く必要があり、本来業務である医療行為への集中が難しくなるかもしれません。税理士や司法書士、行政書士への依頼が必要になる場合もあり、その際は一定の費用が発生する点も視野に入れておきましょう。
社会保険と厚生年金が必須
医療法人とは実質的には「会社」であるため、役員や従業員は健康保険と厚生年金に加入しなければなりません。社会保険料は給与の約30%を占め、そのうちの1/2は法人が負担します。
よって、財政的な負担が個人よりも増えます。なお、医師会に加入している場合、医師国保への加入が可能です。医師国保に加入すると、保険料が比較的低く抑えられるケースがあるため、状況によっては負担を減らせる手段となるでしょう。
解散の難易度が高くなる
医療法人化はほかの営利法人と同様、解散が可能ですが、その際には行政機関の許認可が必要です。
よって、医療法人化した後は簡単に解散できず、再び個人事業主に戻るのは難しいとされています。
なお、医療法人の解散は、医療法によって定められた以下の事由以外での解散は認められていません。(医療法第55条)
- 定款で定める解散事由の発生
- 目的たる業務の成功の不能
- 社員総会での4分の3以上の賛成による決議
- 他の医療法人との合併
- 社員の欠乏(社員の辞任・死亡による不足)
- 破産手続き開始の決定
- 設立認可の取消
特に社員総会の決議による解散の場合は、慎重に議事を進行する必要があり、手続きが少しでも欠けると解散は無効となります。
出典:厚生労働省「解散認可申請」(20231031)
利益配分ができない
医療法人化の際、重要なポイントの一つが利益の配分に関する制約です。医療法人は、本来業務および附随業務による利益を得られますが、それ以上の収益を得るための事業は限定的です。さらに、医療法人は剰余金の配当を禁止されています。
つまり、損益計算上の利益金は社員に分配できないため、すべて積立金として留保されるか、施設の整備・改善、法人の職員に対する給与の改善などに充てなければなりません。この制約により、医療法人はその本質上、営利法人とは異なります。
出典:厚生労働省「医療法人について(P7)」(20231031)
医療法人化をしたほうがよいケース
家族のために分院を設立したい場合や、複数の事業所を運営したい場合にも医療法人化は検討すべき選択肢です。
医療法人化は、所得による超過累進課税制度を考慮し、法人と個人の利益を分けられるため節税が可能です。さらに、複数のクリニックや事業所を経営でき、分院展開や介護事業所の開設など多岐にわたり事業展開が可能となります。
医療法人化は避けたほうがよいケース
後継者がいない50代以上の医師は、無理に医療法人化を進める必要はありません。医療法人の設立や運営は煩雑であり、負担が大きい場合があります。
また、テナントの場合は内装設備と医療機器を対象資産として、銀行借入金と一緒に法人に引き継ぐ必要があります。
さらに、役員報酬が収入となり、自院の資金の使途が制限されるため、税金がそれほど多くかからない場合は、逆に損をする可能性もあるため注意が必要です。
まとめ
医療法人化によって、節税効果を得られたり、社会的信用が向上したりと、個人事業主にはないさまざまなメリットが得られます。
一方で、手続きが煩雑であったり、解散の難易度が高くなったりといったデメリットも存在します。長期的な視点をもち、個人のまま続けるか法人化へ進むか、双方のメリットや注意点を理解したうえで、検討するようにしましょう。