Case
CLINICSで実現した「患者も職員も大切にする」診療所経営のかたち
沖縄本島中部、人口約4万人を抱える読谷村。そのイオンタウンの一角に、2021年8月、読谷紅いもクリニックは開業しました。院長の矢野昭正先生は脳神経外科を専門としながら、内科・漢方内科を組み合わせた3本柱で、頭痛・めまい・しびれ・もの忘れから、高血圧・糖尿病などの生活習慣病まで、「いつでも気軽に相談に来てもらえる医療」を掲げています。脳神経外科という硬い印象を避け、「誰でも気兼ねなく行ってみよう、と感じてほしい」という想いから、院名にはあえて読谷の特産物である“紅いも”を選びました。開業から5年。診療規模は安定的に伸びてきましたが、矢野先生はいま「これ以上むやみに患者数を増やしたくない」と語ります。背景には、勤務医時代に持てなかった家族への思いと、「患者さんを大切にするのは当然。そのうえで、職員も同じくらい大事にしたい」という、5年かけてたどり着いた経営観があります。その判断を裏側で支えてきたのが、CLINICSカルテの経営分析です。データに基づいて「やること」と「やらないこと」を決めてきた矢野先生に、開業の経緯から電子カルテ選び、これからの診療まで、お話を伺いました。

「家族との時間を、自分のペースで」
Q. まず、開業時の想いから聞かせてください。
ホームページにきれいな言葉をたくさん書いたのですが、本音の部分もお話しすると、ずっと「家族との時間を、自分のペースで作りたい」という思いがどこかにありました。勤務医時代は、患者さんや病院の都合ですべて動くので、こちらに主導権がないんですよね。家族と出かけていても、呼び出しがあれば自分だけ病院に戻る。ゴールデンウィークに友人とキャンプに行っても、翌日が当番だからと途中で帰ってしまう。脳神経外科の手術にはやりがいがあって、いまでも「自分もまだやれるのにな」と思いながら学会の発表を聞くこともあります。そこは正直、マイナス面として感じながら開業しました。それでもトータルで考えたときに、家族との時間を自分で決められることのほうが、自分にとって大きかった。ちょうど物件との巡り合わせもあって、開業に踏み切りました。
Q. 脳神経外科だけでなく、内科・漢方内科も掲げていますね。
読谷村は人口約4万人で「人口が日本一多い村」と言われますが、脳神経外科の単科で開業しても、なかなか患者さんは集まらないだろうと考えていました。事前のシミュレーションでもそうでしたし、生活習慣病を診ないと地域のニーズには応えられない。漢方はもともと勤務医時代から好きで勉強していたので、開業を機に前面に出そうと。脳神経外科を大きな柱に、内科と漢方内科を組み合わせた3本柱にしたのは、そのほうが患者さんの層が広がるからです。クリニックの名前を「紅いも」にしたのも同じ理由です。脳神経外科という硬い響きを入れず、誰でも気兼ねなく来てほしいという思いから、あえて脳とは関係のない名前にしました。

経営分析で毎日の売上が「瞬時にわかる」
Q. いま、CLINICSカルテで特に役立っている機能は。
経営分析は毎日使っています。午前の診療が終わったら半日分の売上を見て、午後が終わったらまた見て、もちろん月次も見ています。税理士さんはどうしても少し前の月の数字を持って来られるのですが、こちらはこの画面を見て「今月はこれくらいです」「先月より伸びています」と瞬時に分かる。そこはすごく助かっています。この経営分析が、診療体制を見直す判断材料にもなりました。例えば、開業当初は水曜半日・土曜半日を含む週6日勤務で診療していたのですが、これを週5日に変えました。職員から「6日連続日勤はきつい」という声があったこと、そして経営分析を2年ほど見続けて、「土曜の午前と水曜の午後は売上にほとんど差がない」と把握できたんです。半年前から患者さんに「土曜は休診になります」とお伝えしたのですが、それを理由に他院へ移った方は、1〜2人。皆さん平日に都合をつけて来てくださって、そこは本当に助けられました。
Q. MRI検査も、データを見ながら運用を変えたそうですね。
MRIは開業前から導入する計画でしたが、工事中に基礎部分が浸水するトラブルがあって、稼働は開業の約1ヶ月後になりました。検査メニューは5~6個ほどあって、当初は1回の検査でフルにやっていたのですが、患者さんが少しずつ増えてくると、検査をフルでやる場合一人あたりの検査時間が長くなってしまう。そこで2024年の秋ごろから、患者数の増加に伴い、経営効率も考慮して検査を分割するようにしました。例えば、頭の血管と首の血管を別の日に分けるとか、認知症の検査も脳の撮影と体積測定を日を変えて行うとか。患者さん一人一人の要望に応えながら、検査も効率よく回せるようになりました。
PACS連携と開発スピードが決め手
Q. 数あるシステムの中で、CLINICSカルテを選んだ決め手は。
最終的には3社で迷いました。決め手のひとつは、当時導入を決めていたクラウドPACSとの連携実績があったこと。これは結構大きかったです。もうひとつは、開発スピードです。ほかの会社に比べて、メドレーさんは「どんどん進化していきそうだな」という雰囲気を感じました。両方使ったわけではないので正解だったかどうかは分かりませんが(笑)、少なくとも使い始めた当初より今のほうがずっと充実しているのは実感しています。そして、画面が見やすいのも気に入っています。文字の大きさも適切で、見やすさは大事な部分です。あと、最初に面白かったのが、患者さんがどこから来ているかを日本地図上に表示する機能。だんだん沖縄県内に広がって、全国にもポイントが増えていって、「診療圏が広がっているな」と実感できました。
受付主導で広がった「melmo」
Q. 患者アプリ「melmo」の案内が、最近大きく伸びていますね。
以前は案内していなかったのですが、診察券番号が表示されるというアップデートがあったため、案内を開始しました。最初は、私が診察の最後に案内していたのですが、それだと診察時間が延びてしまう。そこで、カルテの最後に「melmo案内」と書いておいて、受付がそれを見て、自分たちで「この患者さんなら案内できそうだ」というタイミングで声をかける方法に切り替えました。受付に任せたほうが、適切なタイミングで案内できる。私自身が案内するのはやめて、いまは受付スタッフ主導で回しています。

患者も職員も大切にする、
5年かけてたどり着いた経営観
Q. 5年経営してきて、考え方が変わった部分は。
一番変わったのは、職員のことをもっと大事に考えるようになった点ですね。開業当初は、閉院間際に来られた患者さんも「診てあげよう」と職員を残してでも対応していました。患者さんを増やしたい、気に入られたい、という思いもあった。でも、職員の入れ替わりが続くと、「そうじゃないんだな」と気づいたんです。やっぱり、まず職員を大事にしないといけない。職員が幸せでないと、患者さんにもちゃんと向き合えない。土曜を休診にしたのも、自分たちの時間のためでもありますが、それ以上に職員のことを考えてのことです。患者さんの満足度についても、最近あらためて考えています。Googleクチコミの一つ一つに一喜一憂するのではなく、長い目で見て、一人一人にちゃんと満足して帰ってもらえる診療をしたい。だからこそ、患者数をむやみに増やすのではなく、もう一度そこに立ち返ろうと思っているんです。
Q. 今後、クリニックをどうしていきたいですか。
多店舗展開や法人化は考えていません。いまも個人事業主でやっています。世の中には1日100人、300人と診る先生もいますが、私はそこにあまり魅力を感じないんです。自分でやってみても、80人になると一人一人に満足のいく対応ができていないと感じる。だから定期の患者さんは1日60人くらいで、あとは怪我や、脳神経外科でなければ対応できない飛び込みの方をプラスアルファで診る。そのくらいが、自分には一番いいと思っています。
Q. 最後に、これから開業する先生へメッセージを。
私が開業したのはちょうどコロナ禍で、WEB面談がどんどん発達したタイミングでした。そのおかげでCLINICSカルテもクラウドPACSも導入できた。昔のようにお金を払って都市部の開業セミナーに行かなくても、いまは自分から情報を取りに行ける環境があります。だから、どんどんセミナーや情報を活用して、自分にマッチしたシステムや方針を選んでほしい。開業は、自分の時間も家族との時間も作りやすくなり、やった分だけ自分や職員に返ってくる。リスクはありますが、やってよかったと心から思っています。
※所属・体制は取材時点(2026年6月)のものです。