
電子カルテの入れ替えで失敗しないためには?乗り換えのポイント・費用相場・移行手順を解説
全国の医療機関で導入が進む「電子カルテ」。
その利便性は広く認識されていますが、現行システムへの不満や業務とのミスマッチから、別の製品への乗り換えや新しい製品への入れ替えを検討している医療機関も少なくないのが実情です。
しかし入れ替えにあたっては、どの時期に・どのような流れで・どの製品に切り替えればよいのか、判断に迷う場面は少なくありません。
業務に支障が出ないよう慎重に進めたいという気持ちと、今のシステムでは使いにくいという現場の声の両方に応えるには、準備と情報収集が重要です。
そこで本記事では、電子カルテの入れ替えに関するポイントから、費用相場、具体的な移行手順までを分かりやすく解説します。
目次[非表示]
- 1.電子カルテ入れ替え時のポイント
- 1.1.タイミング
- 1.2.移行計画の重要性
- 1.3.データ移行について
- 1.4.提供事業者のサポート
- 1.5.新旧のシステムの併用
- 2.電子カルテ入れ替えの費用相場
- 2.1.費用相場
- 2.2.利用できる補助金制度
- 3.クラウド型とオンプレミス型のメリット・デメリット
- 4.電子カルテを入れ替える手順
- 4.1.電子カルテの選定
- 4.2.移行するデータの整理
- 4.3.システム設定とカスタマイズ
- 4.4.試験運用とスタッフのトレーニング
- 4.5.本格運用
- 5.まとめ
電子カルテ入れ替え時のポイント

電子カルテの入れ替えは、診療体制や業務フローに直結するため、決して容易な作業ではありません。ここではまず、入れ替え時に押さえておきたい5つのポイントを見ていきましょう。
タイミング
電子カルテを入れ替えるタイミングは、院内業務への影響を抑えるうえで慎重な見極めが必要です。
多くの医療機関は、現在使用している電子カルテの契約更新時に合わせて入れ替える方法を選んでいます。
とくにオンプレミス型の場合、5年程度で保守契約やリース契約を再締結するのが一般的で、その節目を境にシステムの見直しを図るケースが多く見受けられます。
一方で、バージョンアップ、システムの更新予定時期をきっかけに入れ替えを検討するケースもあります。
バージョンアップ、システムの更新予定時期にまとまった費用が発生する前に、より使いやすい別の製品へ乗り換えたり、新しい製品へ入れ替えたりすることで、結果的にコストの圧縮につながることもあります。
また、患者数が落ち着いている時期を選ぶのも重要な視点です。
診療がひっ迫しているタイミングでの入れ替えは、スタッフの負担を増やしかねません。
可能であれば、季節的な閑散期や診療報酬改定の直後など、業務が比較的落ち着いている期間を選ぶと安心です。
これらを踏まえ、診療スケジュールや契約状況を総合的に確認しながら、無理のないタイミングでの入れ替えを検討するとよいでしょう。
移行計画の重要性
電子カルテの入れ替えは、思いつきで進められるものではありません。
業務に支障をきたさないためには、事前にしっかりとした移行計画を立てておく必要があります。
導入するシステムが決まってから本格稼働に至るまでには、データの移行、スタッフの研修、システム設定、動作確認など、複数の工程を踏むことになります。
これらを無計画に進めてしまうと、診療の現場に混乱を招きかねません。
そのため、あらかじめスケジュールを明確にし、各工程にどれだけの時間がかかるのかを見積もっておくことが重要です。
可能であれば、院内の各部門と情報共有しながら、現場の声を反映した計画にしていくと、運用開始後のトラブルも抑えやすくなります。
データ移行について
電子カルテを入れ替えるにあたって、多くの医療機関で悩まれるのが「既存データをどう移すか」という点です。
メーカーごとにデータ形式や管理方法が異なるため、単純にコピーして使うことはできません。移行にはいくつかの方法があり、それぞれにメリットと注意点があります。
代表的なのは、旧システムからデータを抽出し、新しい電子カルテ用に変換して取り込む方法です。
これは「データコンバート」と呼ばれ、実施には費用がかかります。また、すべてのデータを完全に移行できるとは限らない点に注意が必要です。
最近では、あらかじめコンバート機能を備えているシステムも増えているため、仕様を事前に確認しておくと安心です。
別の方法として、新旧システムを一時的に併用し、過去データは旧システムで参照する運用もあります。
移行作業が不要という点で手軽ですが、保守費用が継続してかかるほか、情報管理が二重になるため、運用効率の面で工夫が必要です。
ほかにも、旧データをPDFやHTMLなどの汎用ファイルに変換して保存し、必要時に参照できる形で残す方法もあります。
この場合、旧システムの契約を終了できる点はメリットですが、ファイル変換や管理作業に手間がかかるうえ、医療情報としての保存要件を満たしているかどうかの確認が欠かせません。
どの方法を選ぶかは、院内の業務体制や移行にかけられるリソースによって異なります。
事前にベンダー(提供事業者)と十分にすり合わせを行い、データの重要度や保存義務なども考慮しながら、自院に合った方法を選定しましょう。
電子カルテのデータ移行について、以下の記事でも詳しく解説しています。
提供事業者のサポート
電子カルテの入れ替えでは、ベンダーのサポート体制が移行の成否を左右するといっても過言ではありません。
導入前の相談対応から、システム選定、移行作業、本格稼働後のアフターフォローまで、各フェーズでどれだけ伴走してもらえるかが重要なポイントです。
例えば、データ移行の方法について具体的な提案があるか、現場の業務に合わせた操作説明やトレーニングの計画を組んでくれるかといった点は、とくに確認しておきたい事項です。
また、導入後に不具合やトラブルが起きた際、どのような手段・対応時間でサポートが受けられるかも、事前に把握しておくべきでしょう。
サポート体制はベンダーによって大きく異なるため、単に製品の性能だけで判断せず、「どこまで対応してくれるか」という視点で比較検討することが大切です。
新旧のシステムの併用
電子カルテを入れ替える際、移行直後からすぐにすべての業務を新システムで行うのは難しい場面もあります。
そのため、多くの医療機関では一定期間、旧システムと新システムを併用する運用が採用されています。
とくに、レセプトコンピューターの入れ替えも同時に行う場合は、スケジュール管理が重要です。
診療データの締め処理やレセプト請求との兼ね合いから、基本的には月初から新システムを使い始めるためには、前月末にはすべてのセッティングを完了させておく必要があります。
また、旧システムに登録された患者情報や過去のレセプトデータを確認する場面も多く、返戻や査定対応などで操作が求められることもあります。
そのため、新システムに切り替えた後も、最低1カ月程度は旧システムを参照用として残しておく体制が必要でしょう。
電子カルテ入れ替えの費用相場

電子カルテの入れ替えには、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。ここでは、入れ替え時にかかる費用の相場と、活用できる補助金制度について整理しておきましょう。
費用相場
電子カルテの入れ替えにかかる費用は、選択するシステムの形式や規模によって幅があります。
一般的なクリニックでは、オンプレミス型を導入する場合、サーバーやバックアップ装置を含めておおよそ300万円〜500万円程度が目安です。
一方、クラウド型の場合は初期費用を抑えやすい傾向にあります。
サーバー設置が不要なため機器構成もシンプルで、比較的導入しやすいと感じる医療機関も多いようです。
ただし、インターネット環境に依存するため、安定した回線や通信対策が前提となります。
また、電子カルテの導入費用には、システム本体の価格だけでなく、データ移行作業費、スタッフ研修費、導入時の設定・カスタマイズ費用なども加算されます。
パソコンやプリンター、スキャナーなどの周辺機器を更新する場合は、台数分の追加コストが発生する点にも注意が必要です。
利用できる補助金制度
電子カルテの入れ替えを検討していても、初期費用の負担が大きく、なかなか踏み切れないと感じている医療機関も少なくないでしょう。そうしたときに検討したいのが、国や自治体が実施している補助金制度の活用です。要件を満たせば、導入費用の一部を補填できる可能性があります。
代表的な補助制度には、以下の3つがあります。
例えば「IT導入補助金(通常枠)」では、クラウド型の電子カルテや関連システムの導入が補助対象となることがあり、補助率は最大2分の1、補助上限額は450万円(2025年時点)です。
なお、制度ごとに対象要件や申請期間、補助率などは異なるため、入れ替えを検討するタイミングで最新の情報を必ず確認しましょう。
クラウド型とオンプレミス型のメリット・デメリット

電子カルテはクラウド型とオンプレミス型かによって得られるメリットには違いがあります。
どちらを選ぶかは、自院の診療体制や運用方針に応じて検討する必要があります。
ここでは、クラウド型とオンプレミス型のメリットと、事前に把握しておきたいデメリットをそれぞれ解説します。
メリット
■クラウド型のメリット
- 初期費用を抑えやすい
- インターネット環境があればどこでも利用できる
- 自動バックアップ機能を備えていることが多い
- バージョンアップや保守作業が自動で行われる
- 災害時のデータ保全性が高い
■オンプレミス型のメリット
- 自院内でデータを一元管理できる
- オフライン環境でも利用が可能
- ネットワーク障害の影響を受けにくい
- カスタマイズの自由度が高い
- セキュリティポリシーを自院基準で運用できる
デメリット
一方、主なデメリットとしては次の通りです。
■クラウド型のデメリット
- 通信障害時にアクセスできなくなるリスクがある
- 院内で直接データを保管・管理するのが難しい
- カスタマイズの自由度が製品ごとに限られる
- ランニングコストが継続的に発生する
■オンプレミス型のデメリット
- 初期導入費用が高額になりやすい
- サーバーの保守・管理に専門的な対応が必要
- システムの更新作業が院内対応となるため、工数がかかる
- 災害時や機器故障時に、データ復旧に時間を要するケースがある
電子カルテを入れ替える手順

電子カルテの入れ替えは、新システムの選定から本格稼働に至るまで、いくつもの工程を段階的に進めていく必要があります。ここでは、電子カルテ入れ替えの基本的な流れを順に紹介します。
電子カルテの選定
入れ替えを進めるうえで最初に行うのが、新しく導入する電子カルテの選定です。
システムによって機能や使い勝手、費用などに違いがあるため、自院の診療スタイルや業務フローに合った製品を見極める必要があります。
確認しておきたい主なポイントは、以下の8つです。
- 自院の診療科に必要な機能が搭載されているか
- 操作がシンプルで、医師・スタッフが使いやすいか
- 既存の予約システムやレセコンなどと連携できるか
- 導入前後のサポート体制がしっかりしているか
- 電子保存の三原則(真正性・見読性・保存性)を満たしているか
- 既存システムの契約期間を確認し、違約金が発生しない時期か
- データ移行が可能か、または汎用的な出力形式に対応しているか
- 初期費用や月額費用などが予算に見合っているか
導入前にトライアルを提供している製品もあるため、操作性を実際に試してみるのもおすすめです。スタッフ全体が無理なく使えることを前提に、慎重に選定を進めましょう。
以下の記事ではおすすめの電子カルテメーカー23選を紹介しています。
移行するデータの整理
電子カルテを入れ替える前に行っておきたいのが「移行するデータの選別と整理」です。
現在使用しているカルテ内の情報には、日々の診療に欠かせない重要なデータと、すでに使われていない古い情報の両方が含まれています。
例えば、患者基本情報や直近の診療記録、処方履歴などは確実に新システムへ引き継ぐ必要があります。
一方で、重複しているデータや数年前から参照されていない情報などは、必ずしもすべてを移行する必要はありません。
この段階であらかじめデータの整理を行っておくことで、移行作業の負担を軽減できるうえ、新システムの動作もスムーズになります。
ベンダーと相談しながら、どのデータを移すべきか事前にリストアップしておくと安心です。
システム設定とカスタマイズ
新しい電子カルテを導入する際は、自院の業務に合わせてシステムの初期設定やカスタマイズを行うことが欠かせません。
製品によっては導入時点である程度テンプレートが用意されている場合もありますが、実際の診療や受付業務に即した調整が必要になることがほとんどです。
例えば、診療科ごとの入力項目の設定や、診断名・処方の選択肢の並び順、各画面のレイアウトなどは、医師やスタッフがスムーズに操作できるように整えておくと、日々の業務効率に直結します。
また、院内で運用している予約システムや検査機器との連携設定も、この段階で進めておくと安心です。
細かい設定や調整を後回しにしてしまうと、運用開始後に手間が増えたり、現場の混乱につながる可能性があります。
ベンダーと相談しながら、なるべく現場の運用に近い状態でシステムを立ち上げられるようにしておきましょう。
試験運用とスタッフのトレーニング
システムの初期設定やカスタマイズが一通り完了したら、いきなり本格運用に移るのではなく、一定期間の「試験運用」を行うことが重要です。
実際の診療を想定した環境で操作を確認することで、不具合や設定ミスに気づけるだけでなく、現場スタッフが操作に慣れるための貴重な期間にもなります。
試験運用中には、入力の流れ、画面の動き、周辺機器との連携などを細かく確認し、「思ったように動かない」「使いづらい」といった課題があれば、この段階で調整しておきます。
同時に行いたいのが、スタッフ全員への操作研修です。操作に不慣れなまま本格稼働を迎えると、診療の流れに支障が出る可能性があります。
職種ごとに使う機能が異なるため、医師・看護師・事務などそれぞれに合った内容でトレーニングを実施しましょう。
本格運用
試験運用とトレーニングを経て、いよいよ新しい電子カルテの本格運用です。
この段階では、準備期間に想定したとおりにシステムが稼働するか、実際の診療のなかで確認しながら対応を進めていく必要があります。
とくに運用初期は、スタッフの操作に戸惑いが出やすく、入力ミスや患者対応の遅れなどが起こることもあります。
そのため、しばらくの間は旧システムも参照用に残しておき、必要に応じて過去データを確認できるようにしておくと安心です。
可能であれば、ベンダーのサポート担当に常駐してもらう、あるいはサポート窓口や院内のフォロー担当者を明確にしておくと、万一のトラブルにも即座に対応できます。
また、運用開始後に寄せられた現場の声や要望は、その都度記録し、必要があれば設定の見直しやトレーニングの再実施を検討します。
焦らず一つずつ課題を解消しながら、新しい運用体制を軌道に乗せていきましょう。
まとめ

電子カルテの入れ替えは、院内の診療体制や業務フロー全体に影響を及ぼす大プロジェクトです。
タイミングの見極め、データ移行の準備、スタッフへの教育、そして適切なベンダー選びなど、事前に考慮すべき項目は多岐にわたります。
しかし、段階的に準備を進めていけば、現場の負担を抑えながら、より使いやすく効率的なシステム環境を整えることが可能です。
費用についても、補助金の活用を視野に入れることで、導入のハードルを下げられるでしょう。
今のシステムに課題を感じているのであれば、まずは情報収集から始めてみてください。
院内の運用に合った電子カルテを選び、納得のいく形でスムーズな移行を目指していきましょう。












