
婦人科を開業するには?資金・年収・成功に導くポイントを解説
婦人科の開業は、地域医療において大きな役割を果たす一方で、資金計画や経営戦略を誤ると厳しい道のりとなることもあります。
勤務医から独立を考えたとき、どれほどの開業資金が必要なのか、本当に経営は成り立つのか、不安を抱える方は少なくありません。
本記事では、婦人科の開業を検討するうえで気になる資金の目安や、開業医と勤務医の年収比較、新規開業と承継開業の違いまで詳しく解説します。
開業を成功させるために押さえておきたいポイントや成功事例もお伝えします。
目次[非表示]
- 1.婦人科の開業に必要な資金はどれくらい?
- 1.1.診療範囲により費用差が出る
- 1.2.開業資金の目安と主な内訳
- 1.3.自己資金はどれくらい準備するべきか
- 2.婦人科開業は儲かる?開業医と勤務医の年収比較
- 3.婦人科の開業は「新規開業」と「承継開業」どちらがいい?
- 3.1.新規開業のメリット・デメリット
- 3.2.承継開業のメリット・デメリット
- 4.婦人科の開業を成功に導く5つのポイント
- 4.1.1.立地・物件選びを慎重に行う
- 4.2.2.女性患者に配慮した内装・プライバシー設計を意識する
- 4.3.3.女性医師の場合はその旨を積極的に周知する
- 4.4.4.スタッフ採用・育成に力を入れる
- 4.5.5.SNSやホームページなど集患の工夫も忘れずに
- 5.婦人科クリニックの成功事例
- 5.1.美容皮膚科との連携
- 5.2.オンライン診療の活用
- 6.まとめ
婦人科の開業に必要な資金はどれくらい?

婦人科を開業するにあたって、最初に把握しておきたいのが必要資金の全体像です。
開業にかかる費用は一律ではなく、診療内容や物件の規模によって大きく変動します。
ここではまず、診療範囲による費用差や一般的な開業資金の目安、自己資金の準備について詳しく確認していきましょう。
診療範囲により費用差が出る
婦人科と一口に言っても、その診療範囲は非常に幅広く、どこまで対応するかによって必要資金が大きく変動します。
まず押さえておきたいのは、「婦人科」と「産婦人科」の違いです。
一般的に「婦人科」は、女性特有の疾患や健康管理を中心に診療を行う科目で、妊婦健診や分娩には対応しません。
これに対して「産婦人科」は、婦人科診療に加え、妊娠検診、分娩、産後のケアまでを担当します。
例えば、婦人科のみで診療を行う場合は、検査機器や診察設備を中心とした投資で済みます。
一方で、産科を併設し分娩に対応するとなれば、分娩室や新生児ケア設備、入院スペースの確保のほか、助産師を含む多職種スタッフの確保が必要です。
設備投資や人件費も一気に膨らみます。
仮に産科を併設しない場合でも、不妊治療を診療に組み込んだり、人工中絶手術に対応したりする場合は、それだけ必要な医療機器が増えるため、開業資金はさらに上積みされていきます。
このように、婦人科クリニックの開業では「どこまで診療の幅を持たせるか」が、資金計画策定に必要な条件です。
診療範囲を広げれば患者ニーズに幅広く応えられますが、その分初期投資と経営リスクも比例して大きくなることを、冷静に見極めることが重要です。
開業資金の目安と主な内訳
では、実際に婦人科を開業する際、どれほどの資金が必要になるのでしょうか。
診療内容や立地条件にもよりますが、一般的に婦人科単体で開業する場合、
総額でおおよそ7,000万円〜9,000万円が一つの目安です。
ただし、これに不妊治療設備を加える場合は、1億円程度まで膨らむこともあります。
内訳としては、
内装・設備で2,000万円~3,000万円、
医療機器に2,000万円~3,000万円、
保証金(賃貸借契約)に約500万円、
医師会入会金に約400万円、
人件費や医薬品・消耗品費、
医療機器のリース・保守費用、
広告宣伝費など
開業準備費用を含めた運転資金で約2,000万円がかかってきます。
なお、開業資金を考える際、初期投資(物件取得費、内装工事費、医療機器購入費など)に目が行きがちですが、日々の運営費用である運転資金の準備も重要です。
安心して診療に専念するためにも、最低6カ月分、できれば1年分程度の運転資金を確保しておきましょう。
自己資金はどれくらい準備するべきか
実際のところ、開業資金を全額自己資金で賄える方は非常に稀で、金融機関からの融資を受けて開業するのが一般的な流れです。
もちろん、自己資金は多いに越したことはありませんが、すべてを用意しようとすると、運転資金や予備費に余裕がなくなってしまい、むしろ経営リスクを高めてしまうこともあります。
開業資金総額の「おおむね1割〜2割程度」を自己資金として準備しておくのが理想的です。
自己資金が1割〜2割程度あると、金融機関からの融資審査にも比較的前向きに取り組んでもらえる可能性が高まりますし、借入額が適正に抑えられるため、月々の返済負担も軽減できます。
ただし、自己資金がまったくない場合でも、開業そのものが不可能というわけではありません。
近年では、医師の開業に対する金融機関の評価は比較的高く、条件次第では自己資金ゼロでも融資を受けて開業できるケースも存在します。
とはいえ、自己資金ゼロでの開業は、全額借入に依存するため、経営が軌道に乗るまでの資金繰りや、返済リスクをしっかりと見極める必要があります。
婦人科開業は儲かる?開業医と勤務医の年収比較

婦人科を開業した場合、「実際にどのくらい儲かるのか?」という点は、多くの先生が気になるポイントだと思います。ここでは、参考となる統計データを紹介しましょう。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構が実施した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、産科・婦人科の勤務医の年収は平均で約1,466万円となっています。
一方で、厚生労働省が公表している「第24回 医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」によれば、産婦人科の開業医の平均年収(損益差額)は約3,913万円とされており、勤務医と比べて約2.5倍の水準です。
ただし、このデータは産婦人科医の年収を示しています。婦人科のみで開業した場合は、分娩を扱わないためこの年収よりもやや低くなると考えておきましょう。
また、もう一つ注意したいのは、「損益差額=年収ではない」という点です。
損益差額とは、あくまで売上から人件費や材料費、設備費などの経費を差し引いたクリニックとしての利益を指します。
ここから医療機器のリース料、借入金の返済、税金の支払いなども賄っていく必要があるため、上記の金額は純粋に手元に入ってくるお金ではないことにも注意が必要です。
とはいえ、開業医の場合は年収に天井がありません。患者数や診療内容を工夫することで、勤務医時代よりも大幅な年収アップが期待できるでしょう。
婦人科の開業は「新規開業」と「承継開業」どちらがいい?

婦人科の開業を検討される際、「ゼロから始める新規開業」か「既存クリニックを引き継ぐ承継開業」か、多くの医師にとってこの選択は重要な分かれ目です。
それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが正解というものではありません。ご自身のビジョンやリスク許容度に合わせて、慎重に見極めることが重要です。
ここでは、それぞれの特徴を詳しく解説します。
新規開業のメリット・デメリット
新規開業の最大のメリットは、すべてを自分の理想で設計できることです。
立地、クリニックのコンセプト、内装、スタッフ体制、医療機器の選定など、すべて自分の判断で一から作り上げられます。これは、地域のニーズにあわせて提供できるため、医師にとって大きなやりがいになります。
また、最新の医療機器を導入しやすく、患者にとっても「新しい、きれい、安心」といった好印象を持たれやすい点もメリットです。
一方で、新規開業はゼロからの集患が最大の課題です。
開業当初は、認知度がない状態でスタートするため、しっかりとしたマーケティング戦略が欠かせません。
特に婦人科は「口コミ」が患者数に大きく影響するため、軌道に乗るまでには一定の時間と広告費が必要です。
また、物件取得費や設備投資が初期段階で大きくかかるため、資金繰りのリスクも高くなります。
承継開業のメリット・デメリット
承継開業とは、運営しているクリニックを、そのまま引き継ぐ方法です。
この場合、既存の患者や地域での知名度、スタッフがそのまま残るケースが多く、開業直後から一定の売上が見込めるという点が大きなメリットです。
特に婦人科では「かかりつけ医」として患者との信頼関係が築かれていることが多く、早い段階から黒字化や安定経営の目途が立ちやすくなります。
また、初期投資も比較的抑えられます。すでに内装や設備が整っており、場合によっては医療機器もそのまま利用できるため、資金負担を軽減しやすいのも承継開業のメリットです。
一方、患者層が特定の年代に偏っている場合、特に高齢患者が多いケースでは、長期的に見て新規患者の集患にも注力しなければなりません。
また、人件費が高く設定されている場合もあります。スタッフが長く勤務しているクリニックでは、昇給や待遇の水準がすでに一定ラインに達しており、新院長としてそのまま引き継ぐと人件費の負担が大きくなることがあります。
このほか、建物の老朽化問題にも注意が必要です。場合によっては修繕費が高額で、早期に移転を検討しなければならないケースもあります。
承継開業については以下の記事で詳しく説明しています。
婦人科の開業を成功に導く5つのポイント

婦人科の開業は、医療スキルだけでは成功しません。特に婦人科は患者様の心理的ハードルが高い診療科のため、「選ばれるクリニック」にするための戦略が欠かせません。
ここからは、婦人科の開業を成功に導くために、特に重要な5つのポイントを紹介します。
1.立地・物件選びを慎重に行う
婦人科の開業を成功させるうえで、まず重要なのが立地・物件選びです。
産科の場合、車で来院する患者が多く、幹線道路沿いの物件や駐車場の確保が重要になりますが、婦人科は公共交通機関を利用して来院する人が大半です。
そのため、できる限り駅から徒歩圏内の物件を選ぶことが望ましいといえます。
また、婦人科は診療の特性上、通行人の目線を気にされる患者が一定数います。
このため、分かりやすい路面店や人通りの多い低層階が必ずしも最良とは限りません。
むしろ、少し奥まった場所や中層階でも患者にとっては安心感につながりますし、その分、物件取得費を抑えられる場合もあります。
このほか、婦人科では定期的な健診や検査を行うことが多く、場合によってはMRI・CT・マンモグラフィーといった高度な画像診断が必要になるケースもあります。
これらを自院で導入しない場合は、事前に検査連携先の医療機関を確保しておくことが重要です。
特に、患者の利便性を考えると、提携先の医療機関までの距離感や移動手段も意識しておくとよいでしょう。
2.女性患者に配慮した内装・プライバシー設計を意識する
婦人科は特にデリケートな診療科であり、患者が安心して来院し、リラックスして受診できる空間づくりが欠かせません。
受付、待合、診察室、トイレといった各動線において、他の患者と極力顔を合わせない設計や、音漏れへの配慮が求められます。
内装デザインも、清潔感を保ちつつ、女性が心地よく過ごせるような温かな雰囲気を意識すると、患者満足度の向上につながるでしょう。
さらに、付き添いで来院された男性が院内のどこまで入れるのか、その範囲も事前にしっかりとルールを決めておくことが大切です。
院内で付き添い者と患者の動線をしっかり分けることで、他の女性患者の心理的な負担も和らげられます。
3.女性医師の場合はその旨を積極的に周知する
婦人科や産婦人科は、女性患者が通院に対して心理的なハードルを感じやすい診療科です。
そのため、女性医師が開業する場合は、患者に安心感を持ってもらいやすいという点で一定の強みにつながるでしょう。
このような背景を踏まえると、女性医師が院長であることは、アピールポイントです。
ホームページやクリニックの看板、パンフレットなどを活用し、患者にしっかりと伝える工夫が重要です。
ただし、婦人科領域はもともと女性医師の比率が高く、現在では約4割を占めていると言われています。そのため、女性医師であることだけで大きな集患効果が得られるとは限らない点にも注意が必要です。
また、男性医師が開業する場合も対策は可能です。
例えば、女性の勤務医を採用している場合は、その情報を明確に伝えることが患者の安心につながります。
4.スタッフ採用・育成に力を入れる
婦人科における患者満足度は、医師の診療技術だけでなく、スタッフのホスピタリティによって大きく左右されます。
特に、婦人科は患者がプライベートな悩みを打ち明ける場であるため、受付や看護師、医療事務スタッフの「接遇力」がクリニック全体の信頼感を左右します。
現代は口コミサイトやSNSによって、リアルタイムでクリニックの評価が拡散される時代です。
一度でも不適切な対応が露見すると、短期間で悪評が広がり、集患に深刻な影響を与えかねません。
したがって、スタッフ採用の際には単に経験やスキルを見るのではなく、「相手の気持ちに寄り添えるか」「笑顔で感じの良い応対ができるか」といった人柄を重視しましょう。
また、採用後も接遇研修・クレーム対応研修・婦人科特有のマナー研修などを継続的に実施し、スタッフ全員の意識とスキルを高い水準で保つことが重要です。
5.SNSやホームページなど集患の工夫も忘れずに
婦人科クリニックを開業しても、患者に存在を知ってもらわなければ来院は見込めません。
特に婦人科は「どの先生がどのような診療をしているのか」という安心感が、来院の大きな動機になります。そのため、まずはしっかりとホームページを作りましょう。
診療時間や治療内容といった基本情報はもちろん、院内の様子が分かる写真や、院長のメッセージなど、人柄が伝わる情報を掲載すると効果的です。
また、婦人科系のよくある悩みを解説したコラムやFAQを載せることで、検索エンジンを通じて見つけてもらいやすくなります。
これに加えて、InstagramやX(旧Twitter)などのSNSを活用し、クリニックの日常、女性の健康啓発、季節ごとの婦人科疾患に関する注意喚起などを定期的に発信すれば、親近感と信頼感を構築できます。
オフラインだけでなく、オンラインでの存在感を高めることが、今後の婦人科経営における必須戦略と言えるでしょう。
婦人科クリニックの成功事例

婦人科クリニックを安定的に経営していくためには、地域ニーズを的確に捉え、自院ならではの強みを築くことが重要です。実際に成功しているクリニックは、時代の流れや患者の要望に柔軟に対応しながら差別化を図っています。
ここでは、具体的にどのような取り組みが成功につながっているのかを紹介します。
美容皮膚科との連携
婦人科クリニックに通う患者のなかには、次のような悩みを持つ人がいます。
美容への関心はあるものの、美容クリニックに対して心理的なハードルを感じている
多忙で美容皮膚科に通う時間が取れない
このような患者のニーズに応えるために、美容皮膚科の医師に非常勤で勤務してもらい、レーザー治療やドクターズコスメといった比較的シンプルでニーズの高い施術に院内で対応できるようにし、安定した経営を実現した婦人科クリニックがあります。
患者にとっても、信頼しているクリニック内で美容メニューを気軽に受けることができ、高い満足度につながっています。
オンライン診療の活用
近年、婦人科でもオンライン診療を積極的に導入する動きが広がっています。
オンライン診療は院内における感染リスクの低減に役立つのみならず、婦人科の場合はピルやモーニングアフターピルの処方を希望する新規患者に喜ばれる選択肢です。
特に婦人科受診に心理的な抵抗を感じる若年層にとって、オンライン診療は安心して利用できる手段となるでしょう。
新型コロナウイルス感染症の拡大を期に、オンライン診療を取り入れて新規患者の増加に成功したクリニックがあります。
なかには、オンライン診療を取り入れたことにより、既存患者のなかに定期検診や別の疾患で来院する流れが生まれ、外来患者数の増加につながった例もあるのです。
婦人科におすすめのオンライン診療システムは以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
婦人科の開業には一定の資金が必要です。
しかし、自身の強みや診療方針をしっかりと活かせれば、安定した経営につながる可能性は十分にあります。
成功に向けては、資金計画だけでなく、地域のニーズを踏まえたマーケティングや、他院との差別化戦略を具体的に考えることが重要です。
また、新規開業と承継開業は、それぞれにメリット・デメリットがあります。
どちらが自院に適しているかを慎重に見極め、立地や内装、スタッフ採用まで一つひとつていねいに計画を立てることが、長く患者に支持されるクリニック運営につながります。
今回紹介した成功事例や開業のポイントを参考にしながら、安心して通える婦人科クリニックの実現に向けて、着実に準備を進めていきましょう












