三重病院では、国の「アレルギー疾患都道府県拠点病院モデル事業」に採択されたことをきっかけに、2019年4月にオンライン診療を導入した。現在は、アレルギー科と心療科においてCLINICSを活用し、再診患者へのオンライン診療を提供している。
アレルギー科医師でアレルギー疾患治療開発研究室長でもある長尾みづほ先生に、三重病院におけるオンライン診療の実態やメリット、課題についてお話を伺った。
ー三重病院では2019年4月という早い時期にオンライン診療を導入されています。CLINICSを導入するに至った経緯を教えてください。
長尾先生:きっかけは、院長がオンライン診療システムに興味を持っていたことですね。院長は新しいものが好きなので。それを機に、当院でオンラインを活用して何ができるだろうかということを考えました。
当時、まず考えたのは病病連携です。特にアレルギー領域では、国の政策としてアレルギー治療を均てん化するというものがあり、当院も三重県のアレルギー拠点病院に指定されています。その均てん化のためのツールとしてオンライン診療が役立つのではないか、と考えました。
ーありがとうございます。病診・病病連携において、どのようなところにニーズがありそうだと思われていたのでしょうか。
長尾先生:三重県は地理的に細長いので、病院へのアクセスが困難なエリアも多く、オンラインを使って患者へのファーストタッチを遠隔でできるといいだろうな、と思いました。
治療について詳しい話をするのはface to faceがいいです。一方で、患者さんは、かかりつけの先生から「今よりも良い治療があるから病院に行ってみて」と言われても、時間をかけて遠方まで本当に行った方がいいのかどうか実感が湧かないですよね。
かかりつけの先生が紹介しても、なかなか患者さんが来院してくれないということは、結構あります。例えば、喘息は治療の水準がすごく上がっているのですが、治療を受けずに発作が出たときだけ受診するという人が、まだたくさんいます。
そのような患者さんに、「どうして三重病院まで来る必要があるのか」という理由を、オンラインを通じて話をすることで分かってもらいたいですね。
その後、来院までにクリニックでできることは実施しておいてもらった方がよいので、「事前にクリニックで採血して、この項目のデータをとっておいてくださいね」という指示ができれば、採血結果を持って来てもらえるし、お互いに効率が良いですよね。そのようなかたちで、患者さんとのファーストタッチができると良いなと思っていました。
ー導入前、オンライン診療に対してどのようなイメージをお持ちでしたか?
長尾先生:元々オンラインのweb会議の経験はあったので、抵抗はありませんでした。対面には及ばないけれど、電話よりはずっと良いというイメージはありましたね。
心配だったのは、周囲がオンラインシステムについていけるかどうか。
コロナ禍の2020年にオンラインツールへの見方はがらっと変わりましたが、導入したのはそれよりも前なので、高齢の方やデジタルツールが苦手な方にとってはハードルが高いだろうとは思っていました。
個人的には、これからの時代、絶対的に必要なものだと思っていましたが、周りの人の理解を得ることができるのかな、という懸念はありましたね。
実際、実施していたアレルギー病診連携では、かかりつけの先生と患者さんが同席の上、患者さんのデバイスを通じて三重病院とオンラインで診療をするのですが、オンラインに慣れていないかかりつけ医からすれば、「紹介状を出して患者さんに行ってもらったほうが楽」という気持ちは当然あったと思います。
でも、紹介状を貰ったけど行かない、何ヶ月も経って再度「行きなさい」って言われてからやっと病院を受診するという患者さんもいるんですよね。
患者さんのことを考えれば、来院しないと何らかの不利益があるわけなので、時間がないとか、面倒だという患者さんの“受診を疎外する要因”を解消できる方法というのはあったほうがいいですよね。
オンライン診療完全ガイドブック
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ーありがとうございます。2020年4月以降は、保険診療のオンライン診療も実施されています。保険診療で導入された経緯を教えてください。
長尾先生:ちょうど新型コロナが流行拡大していた時期で、病院としては、とにかく電話診療に追われて、患者さんに“良い診療”ではなく“最低限の診療”をどうにか届けないといけない、という状況でしたね。それをどうにかしたいと。
電話診療は、病院の電話回線を一本使ってしまいますが、オンライン診療ではそれをせずに済みます。あとは、院内PHSって片手で持ちながら話さないといけないので、片手でPHSを持って診察して、もう片手で電子カルテ書くのって結構大変なんですよね。オンラインなら、ヘッドセットを使って両手がフリーな状態で患者さんとお話し、電子カルテも書くことができます。
ー確かに難しそうですね。病院という大きな組織で新しいものを導入することに対して、院内の運用オペレーションを構築するのは大変ではありませんでしたか。
長尾先生:どのみち、電話診療はやらないといけないですよね。
当時は外来が減っていたので、電話診療とオンライン診療の動線を医事課と看護師が考えてくれました。
電話再診でも、病院の場合は基本的に予約制なので、そのオペレーションを考える時にオンライン診療のオペレーションも一緒に考えました。
例えば、予約に関しては、オンライン診療では医事課がパソコン上でオンライン診療の予約を確認しています。電話診療の場合は、電話を受けてからシステム上に電話診察の予約を入力するので、電話でもオンラインでも動線はさほど変わりません。
診察に関しては、電話再診のほうが大変です。
オンライン診療は、医師が自らオンライン診療のボタンを押してつなぐだけでよいのですが、電話再診の場合は、患者さんから病院に電話がかかってきて、受付から看護師さんにつないで、処方箋を送付する調剤薬局を事前に確認し、それから医師に電話を転送しないといけません。
当院のオンライン診療では、予約時間になったら医師から診察をして、終わったら医事課へ電話を一本いれて診察が終わったことを伝えます。外来に用意しておいた箱に処方箋をいれておくと、電話を受けた医事課が箱から処方箋を持っていき、会計作業をしてくれます。
ー思ったよりシンプルな動線ですね。
長尾先生:電話診療のほうが大変ですね。関わる人が多いし、例えば、かかりつけ薬局を確認し忘れてしまった場合、「どうしよう。誰が対応するのか?」といったような手間がかかります。
オンラインなら、事前に問診票で薬局を確認することができますし、医師は診察をして処方箋を発行するだけの作業で済むので、手間が減りますね。
電話診察と比べると、電話を最初にうける看護師さんの手間が不要になる分、オンライン診療のほうが手間がかからないですよね。
ーオンラインを導入することで、医師だけでなく事務部門としても業務効率があがるということですね。ありがとうございます。
ーいま実際にオンライン診療を受けている方はどのような患者さんですか。
長尾先生:感染対策の他、何らかの理由があってオンライン診療にしているという人も多いですね。
例えば、元々、関東の自宅で普段は在宅勤務しながら定期的に出社をしており、お子様を三重の実家に預ける機会にあわせて三重病院で受診させる、という方がいました。
あとは、三重が地元だけど関東や関西の大学に通っている学生さん。大学生は忙しいので通院をしなくなりやすいし、かといって近所の新しい病院に行くのは抵抗があって、実家に帰ってきたときだけ当院を受診したりすることがあります。
そういう方々は、都会と三重県を頻繁に行き来できないような方は、遠方にいるときはオンライン診療を使いながら、来院できるタイミングでは来院してもらう、ということをしていますね。
また、三重県内の患者さんでも、家から病院まで1時間ぐらい距離があるお子さんは、学校を早退しないと受診に間に合わないこともあるので大変です。なので、親御さんがお迎えにいって学校の駐車場からオンラインで診察を受けたり、受験間近の高校生が、勉強で忙しいし、絶対に体調を崩したくないということで、学校の許可をとってスマホで受診した子もいました。
ーそれぞれのライフスタイルに合わせて、オンラインと対面を組み合わせて上手く活用しているということなんですね。
受診された患者さんからの感想があれば教えていただけますか。
長尾先生:当院では、オンライン診療を受けた患者さんには、CLINICSの患者メッセージ機能を使ってアンケートフォームのURLを送っています。
患者さんは赤ちゃんから高校生まで、希望があれば大人も受けているので幅広いですが、オンライン診療を受けた方からはすごく好評です。基本的に悪く書かれたことっていうのはほとんどないですね。
一回だけ、通信状態が悪くてアクセスできずに電話に切り替えた方から「聞こえない」という意見がありましたが、それぐらいです。
基本的に、「続けて欲しい」とか「もっと広めて欲しい」といった声が多いです。
当院の方針としては、特別な事情がない限りは対面診療で検査もするべきだと考えているので、オンラインだけの連続した診療はしないようにしていますが、患者さんにとって便利なので非常に喜ばれていると思います。
ーとても嬉しいお声です。ありがとうございます。
次に、”病院でオンライン診療を導入するメリット”について先生のお考えを教えていただけますでしょうか。
「独立行政法人国立病院機構 三重病院」概要
医療機関名:独立行政法人国立病院機構 三重病院
所在地:〒514-0125 三重県津市大里窪田町357番地
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