電子カルテの標準化とは? 必要性やメリットについて解説します
地域医療連携の拡大、電子カルテや大規模なオーダリングシステムの導入によって病院間、病院と診療所間、病院内のシステム間での情報交換が問題になっています。
人と人との間で情報を交換する、すなわちコミュニケーションを進めるためには、同じ言語で話すことや、双方が共通に理解できる単語を使うことなどが必要です。
そのために必要なのが、情報保存方法の標準化です。今回はその中でも電子カルテの標準化について、その必要性やメリットを解説します。
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医療情報システムの標準化の背景
病院完結型医療から地域完結型医療となり、他院から自院、自院から他院への情報受け渡しが必要になった医療現場。医療情報システムにおいては、昨今のIT化に伴い、システムが急激に大規模化しました。
かつ、在宅医療やオンライン診療に対応するため多機能となったため、全てのシステムを一社で開発することは不可能となっていきました。それにともなって、マルチベンダーによるシステム構築と、システム間の接続が必要になったのです。
当然システム間接続は機能の拡大により同じく拡大し、その費用が増大したため、費用軽減要求が高まっていきました。さらに、形式の違う医療システム同士の互換が困難になり、情報の利用が容易にできない不具合も発生し、医療情報システムの標準化への要求が高まっていきました。
電子カルテの基本構造
上記の欲求に伴って、電子カルテに関して、国あるいは民間が規格の標準化をするべきだという議論がなされてきました。その中で、厚生労働省の標準的電子カルテ推進委員会が作成した資料によると、総合病院をモデルとした電子カルテの標準的な構造は以下の要素を備えているとされています。
電子カルテの構成要素
1,診療支援 |
検診基本事項の入力、テンプレート(画像、文書)、 患者プロファイル(アレルギー、薬歴)など |
2,オーダ |
診察系:病名、処置、検体・生理検査、画像診断など 治療系:手術、放射線治療、リハビリなど 看護系:輸血、透析、看護、入院基本事項など 管理系:食事・栄養、物品請求、予約など |
3,文書管理 |
院内書類一式(診断書、説明書、同意書、 紹介状、保険関係書類など)の管理 |
4,部門システム |
院内各部門(医事、薬剤、給食、手術、救急など)のシステム |
これはあくまで、総合病院で病床数300以上の大規模病院の標準モデルケースです。病院ごとに必要な機能が微妙に異なるので、機能を取捨選択し、最適な状態で導入できるかが重要なのです。
電子カルテの標準化が必要な理由
電子カルテをはじめとする保健医療情報システムは、医師が診療する過程で検査などのオーダーを出す過去の診療・検査データを閲覧・分析して最適な治療方針を決定する医事会計システムと連動し、迅速な会計処理を可能とするなど、非常に重要な役割を果たしています。
ただし保健医療情報システムは電子カルテの開発メーカーがそれぞれ独自に開発し、独自の進化を遂げてきました。そのため、異なるベンダーのシステム間ではデータのやり取りが非常に困難なのです。
このため、施設間連携・地域連携をする際、異なるベンダーのシステムが混在すると、データ連携が極めて難しいという問題が生じています。今後、医療の在宅提供が普及するにあたり、この課題は医療機関に非常に重くのしかかるでしょう。
2019年度予算で電子カルテの標準化を目指した【医療情報化支援基金】を創設
上記の課題の多発に伴って、社会保障審議会・医療部会では多くの委員から「電子カルテの標準化」を求める声が多数出されました。
それを受け、社会保障審議会・医療部会は厚労省に対し、「電子カルテのコア部分を規定し、その標準化を行う、いわば次世代電子カルテシステムの標準仕様構築は、非常に重要なテーマである。国(省庁)を挙げて、一大プロジェクトとして取り組む必要がある」と強く要請したのです。
厚労省は2019年度予算に【医療情報化支援基金】として300億円を計上。この予算をもとに社会保険診療報酬支払基金に「基金」を設け、オンライン資格確認の導入や電子カルテの標準化に取り組む医療機関等の金銭的補助を行うことを決定しました。
電子カルテ標準化に期待される効果
電子カルテにおける標準化は以下のような効果を期待されています。
- 電子カルテで扱うデータに標準的なコードやマスターを利用し、システムの導入や移行が容易になる
- 電子カルテに入力したデータが簡単に連携できるように、データ形式や通信手順を決められる
- 連携先が院内の部門システムだけでなく、関連病院の電子カルテ、地域医療連携システム、個人健康管理システムなど広範囲になる
- 連携されるデータには標準化された薬品や検査のコードが使用され、連携先でもデータを活用できる
- 多数のシステムからデータを収集して分析できること
電子カルテの標準化の目的や効果はさまざまですが、いずれにも共通することは、各ベンダーが医療現場のニーズを汲み、「使い勝手の良い電子カルテ」へと進化させていることです。つまり高品質の製品やサービスを提供してきているので、その良さは標準化の後も活かすべきと言えるでしょう。
電子カルテの標準化のタイプ
データ形式の標準化 |
内部から見た電子カルテの機能の標準化 ・電子カルテ同士・電子カルテと部門システムとのデータ交換を容易にする →標準化に準拠した製品同士なら個別の開発なしに連携して動作できる
→医療分野に限ったことではないため、広く一般的に標準化された既存のものを流用可能 |
業務フローの標準化 |
外部から見た電子カルテの機能の標準化 ・データ形式の標準化と合わせて複雑な業務を複数のシステムで連携して実施するために業務フローを標準化して各システムで実現する →該当する業務を外部から操作できるようになる |
電子カルテで使われている標準化
SS-MIX 日本医療情報学会が仕様を作成し、SS-MIX普及推進コンソーシアムが普及を推進 |
厳密な標準化よりも実用性を優先して利用する HL7を基本にしたデータ形式でファイルを出力するという日本独自の仕様。
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ICD10対応標準病名マスター 医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)が作成する病名マスター |
電子カルテに標準的に利用されている 世界保健機構(WHO)が作成している病名マスターであるICDを使うのが簡単に思えるが、ICDは死亡統計用に開発された病名コードで正確なコーディングにはある程度の知識と経験が必要 →日本の診療報酬請求のための病名一覧のレベルでICDコードを対応させたのICD10対応標準病名マスター。扱い安く診療報酬請求にも利用できる |
電子カルテの標準化のメリット
各ベンダーが作り上げた電子カルテは、それぞれの医療現場のニーズを汲みながら進化させていきました。その良さを活かしながら、標準化を進めていく必要があります。ここからは、電子カルテの標準化のメリットについて確認していきましょう。
医療情報をスムーズに確認することが可能
薬局が医療機関に対して必要な情報を確認するのはどうしても時間がかかってしまうものです。また、医療機関側の診察時間中は対応できなかったり、照会時にカルテが手元になかった場合でも、スムーズな情報の入手が難しいことがあります。
医療情報をスムーズに確認することが可能になるのは、電子カルテの標準化の最大のメリットです。
標準的なコードとして、厚生労働省標準規格のうち、検査・処方・病名等の必要な標準規格が登録されれば、過去にさかのぼって出力できます。そこで基礎疾患があることがわかれば、主症状との組み合わせより受付で診察の順番を早くするといった対応もできるでしょう。
情報の信頼性が高く情報理解の誤りを防げる
電子カルテは疾病や症状ごとなど、決まったテンプレートに記録することになります。そのため、診療記録の標準化が図れます。また、手書き文字の読みにくさがないため、情報理解の誤りを防ぐことにもつながります。
また、あとから書き足しやページを抜くといった改ざんの危険性も低いことから、紙カルテと比較すると情報の信頼性が高いと言えるでしょう。
重篤な疾患の鑑別や優先順位をつけた診察ができる
アレルギー情報や併用禁忌薬の確認は診療において重要です。しかし、患者が把握していないことや、関係していないと患者が判断して診療情報提供書を患者が持参しないことも多くあります。
そのため、該当の病院に医師自身が手紙で請求したり、患者自身や家族が取りに行ったりなど、必要な情報を確認する時間がかかっているのが現状です。
電子カルテの標準化がされれば、主症状と基礎疾患の情報を同時に得られるので、重篤な疾患の鑑別や優先順位をつけた診察ができるようになるのです。
まとめ
診療現場で実際に使おうとするときに、データが膨大であればあるほど、それを事前に見て診療を行うことは非常に難しいものです。一方、その中に非常に大事な情報があって、それを見落としたことによって患者に迷惑をかけるということになる可能性もあります。
電子カルテの標準化は、そういった人的ミスを減らすためにも必要不可欠といえるでしょう。