
整形外科クリニックの開業完全ガイド:資金・手順・成功のポイントまで徹底解説
整形外科クリニックの開業は、高額な初期投資が必要な一方で、地域に根差した医療を提供し、安定した収益を得やすい分野として注目されています。
しかし、競合が多く、設備や人材の整備も重要となるため、成功には明確な戦略と綿密な準備が不可欠です。
本記事では、整形外科クリニックを開業する際に必要な資金の目安や調達方法、物件の選び方、リハビリ併設の収益性、さらには自由診療や地域連携を活用した経営戦略まで、開業の全体像を段階的に解説します。
目次[非表示]
- 1.整形外科クリニックの開業が注目される理由
- 1.1.高齢化とリハビリニーズの高まり
- 1.2.勤務医と開業医の年収格差
- 1.3.診療圏と患者層の安定性
- 2.整形外科の開業に必要な資金とは?内訳と調達方法
- 2.1.設備・内装・医療機器費用の目安
- 2.2.人件費・広告・運転資金
- 2.3.資金調達の選択肢と注意点
- 3.整形外科クリニック開業までの準備ステップ
- 3.1.診療方針と立地選び
- 3.2.医療モール・居抜き・第三者継承の選択肢
- 3.3.スタッフ採用・広報戦略・内覧会
- 4.開業後に差が出る整形外科クリニックの経営戦略とは?
- 4.1.リハビリ併設
- 4.2.自由診療・特化型診療の導入
- 4.3.地域医療連携・介護施設連携の強化
- 5.まとめ
整形外科クリニックの開業が注目される理由

近年、整形外科は開業市場のなかでも特に注目を集める診療科の一つです。
高齢化の進行による慢性疾患や骨・関節の機能低下への対応ニーズ、さらにリハビリテーション需要の急増などがその一例です。
加えて、幅広い患者層から継続的な通院が見込める整形外科は、経営が安定しやすい点も評価されています。
ここでは、整形外科クリニックが注目される3つの主要な理由について、具体的に解説します。
高齢化とリハビリニーズの高まり
超高齢社会を迎えるなかで、骨折や変形性関節症、脊椎疾患などの整形外科領域の疾患が急増しています。
なかでも、通院による運動器リハビリテーション(運動器リハ)は、介護予防や生活機能維持の観点からも強く求められるようになっています。
国が推進する地域包括ケアシステムでも、整形外科は在宅医療・通所リハビリとの連携は不可欠です。
リハビリ機能を備えた整形外科クリニックは、地域医療の中心として機能しやすく、今後のニーズも右肩上がりで推移することが予想されています。
また、整形外科とリハビリ機能を一体化したクリニックモデルは、患者の回復状況を継続的にモニタリングできるため、通院頻度・リピート率が高く、経営面でも優位性があります。
勤務医と開業医の年収格差
整形外科は、手技や画像診断、リハビリなど幅広い診療領域をカバーできるため、診療報酬が比較的高水準で推移している診療科です。
このため、一定の患者数を確保できれば、収益性の高いクリニック経営が可能になります。
実際に、勤務医と開業医の年収には大きな差があるとされており、整形外科では開業医の平均年収が勤務医の2倍以上になるというデータもあります(※1)。
この収入格差の背景には、診療単価の高さに加えて、自費診療(再生医療、PRP、トリガーポイント注射など)を組み合わせることで利益率を高めやすい特性があります。
そのため、一定の開業コストがかかっても、中長期的には開業の方が高いリターンを得られると判断し、独立を目指す整形外科医が増えています。
※1 中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」
診療圏と患者層の安定性
整形外科は、年齢・性別を問わず幅広い層の患者に支持されている診療科です。
特に高齢者に多い変形性膝関節症や骨粗鬆症、スポーツ障害による外傷、交通事故の後遺症など、継続的なフォローや通院リハビリが必要なケースが非常に多いことが特徴です。
加えて、整形外科の診療圏は比較的広く、地域の中核として機能しやすいという点も見逃せません。
住宅地でも集患が可能で、クリニックの立地が多少駅から離れていても、「専門性」「リハビリ体制」「通いやすさ(駐車場・バリアフリー)」などの工夫で差別化が可能です。
そのため、安定した患者数の確保と、地域に根ざした診療スタイルの両立がしやすい診療科として、整形外科クリニックの開業が多くの医師にとって魅力的な選択肢となっています。
整形外科の開業に必要な資金とは?内訳と調達方法

整形外科クリニックの開業には、他の診療科に比べて高額な初期費用が必要となります。
その理由は、画像診断装置や物理療法機器といった専門性の高い医療機器の導入が求められるうえに、広いリハビリスペースやバリアフリー設備など、施設設計にもコストがかかるためです。
ここでは、整形外科開業に必要な資金の目安と内訳、さらに資金調達の方法や注意点について詳しく解説します。
設備・内装・医療機器費用の目安
整形外科クリニックの開業にかかる総費用は、6,000万〜1億円程度が目安となります。
これは、内科や皮膚科など他の診療科と比較しても高めの金額です。そのなかでも医療機器と施設の内装・設備費が大きな割合を占めます。
主な費用項目は以下のとおりです。
- X線装置(CR・DR)や骨密度測定装置
- 超音波診断装置、牽引装置、干渉波治療器
- 歩行分析器、筋力トレーニングマシン
- 処置台やカートなどの診察備品一式
これらの機器はリースの活用により導入コストを抑えることも可能です。
例えば、X線撮影装置をリースに切り替えることで初期費用を数百万円単位で圧縮できます。
また、レイアウト設計の工夫によってリハビリ室と診療スペースを一体化し、施工面積を最適化することで内装費の削減が可能です。
人件費・広告・運転資金
初期費用として見落とされがちなのが、開業後すぐに必要になる人件費・広告費・運転資金です。
整形外科では、理学療法士(PT)や柔道整復師などのリハビリスタッフの採用が重要となるため、人件費の比率が比較的高くなります。
一般的には、開業後3カ月〜6カ月間の運転資金として1,000万〜2,000万円程度を見込んでおくのが安全です。以下のような費用が含まれます。
- スタッフの給与(医療事務・看護師・PT等)
- 広告宣伝費(内覧会、チラシ、HP制作、Google広告等)
- 消耗品、リース料、電気・水道・通信費などの固定経費
特に開業初期は認知度が低く、患者数が安定するまで一定の時間を要するため、十分な運転資金の確保がクリニック経営の安定化に直結します。
資金調達の選択肢と注意点
整形外科の開業資金は高額になるため、自己資金だけでまかなうことは難しく、多くのケースで外部からの資金調達が必要です。主な選択肢としては以下の3つがあります。
-
日本政策金融公庫(国民生活事業)
医療開業向けに最大7,200万円までの融資が可能で、低利で返済期間も長め。 -
金融機関(信金・地銀)
事業計画書と診療圏調査が重要。地域密着型の医師であることをアピールするのがポイント。 -
医療機器リース会社
医療機器を購入せずに導入することで初期費用を抑え、キャッシュフローを安定化。契約条件の確認が必須。
資金調達では、返済計画と利益率のバランスを慎重に設計することが必要です。
特に、初年度は思ったほど利益が出ずに苦労するケースもあるため、過剰な借入は避けつつ、リスクに備えた自己資金比率も確保しておくのが望ましいとされています。
以下の記事では、開業資金調達で活用できる融資4選を紹介しています。借り入れのステップやローンの注意点にも触れているため、参考にしてみてください。
整形外科クリニック開業までの準備ステップ

整形外科クリニックの開業は、多額の初期投資を伴う一大プロジェクトである一方、うまく戦略を立てれば長期的な安定経営も見込める分野です。
そのためには、開業前から「誰に」「どのような医療を」「どの場所で」提供するのか、明確な方針と実行可能な準備が不可欠となります。
以下では、開業に向けて押さえておきたい具体的なステップを3つの観点から整理します。
診療方針と立地選び
最初に行うべきは、「どのようなクリニックにしたいか」を明確にすることです。
例えば、スポーツ障害を専門とするのか、高齢者向けの慢性疾患管理に注力するのかといった診療方針(コンセプト)を決定します。
加えて重要なのが立地の検討です。
駅近物件は集患力が高く、通勤・通学帰りの患者層を取り込みやすい一方で、賃料が高く競合も多い傾向があります。
それに対して、郊外型は駐車場スペースを確保しやすく、高齢者や家族連れが通院しやすい利点があります。
いずれにしても、診療圏調査や競合分析を通じて、想定するターゲット層が確実に存在しているか、周囲に強力な競合がいないかの見極めが必要です。
開業後の成否は、この「立地選定」と「ターゲット戦略」のマッチングに大きく左右されるのです。
医療モール・居抜き・第三者継承の選択肢
物件の取得方法も開業計画に大きな影響を及ぼします。新築で一から設計する方法もありますが、最近では以下の3つの形態も広く利用されています。
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医療モール型:複数のクリニックと連携しやすく、認知も早い。ただし、賃料が高めで、競合科目との重複にも注意。
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居抜き物件:設備が一部整っており、初期投資を抑えやすいが、レイアウトや動線に制約が出ることも。
- 第三者継承(M&A)すでに患者基盤のある施設を引き継げる反面、人員や契約関係の整理が必要で、引き継ぎ後の運営に注意が必要。
それぞれにメリット・デメリットがあり、開業予算・希望する医療スタイル・ターゲット層との相性を踏まえて慎重に検討する必要があります。
スタッフ採用・広報戦略・内覧会
開業成功のカギを握るのは「人」と「告知」です。
整形外科は他科目に比べてスタッフ構成が多様で、医療事務・看護師に加え、理学療法士(PT)や柔道整復師などのリハビリ人材の確保が求められます。
患者との接点となる受付やリハビリ担当者の印象が、口コミやリピート率に直結するため、採用基準と研修体制も重要です。
また、開業前後の集患対策には、SNSでの情報発信、地域チラシ配布、Googleビジネスプロフィールの整備などを早期に行うことが有効です。
地域に認知される前に、オンライン上での露出を確保することで、初期の来院数が大きく変わってきます。
さらに、内覧会(プレオープン)は非常に効果的な施策です。
近隣住民にクリニックの存在を知ってもらい、医師やスタッフと対面できる機会を設けることで、安心感と信頼感を与える第一印象の場として活用できます。
開業後に差が出る整形外科クリニックの経営戦略とは?

整形外科クリニックを無事に開業できたとしても、経営を安定化させるには開業後の戦略設計が極めて重要です。
特に整形外科は保険診療の枠内にとどまらず、リハビリテーション・自由診療・地域連携といった分野での展開によって、収益性と差別化を実現できる点が強みです。
ここでは、実際に多くの成功事例が実践している「差が出る整形外科経営の3つの戦略」について解説します。
リハビリ併設
整形外科の最大の武器ともいえるのが、「運動器リハビリ」の併設です。
骨折後の機能回復、慢性の腰痛・膝痛の改善、術後のフォローアップなど、定期的なリハビリを必要とする患者が多く、来院頻度が自然と高くなることが特徴です。
リハビリ室を設け、理学療法士(PT)を常勤で配置することで、外来診療と連携した一体的な治療体制を構築できます。
これにより、患者1人あたりの通院回数が増加し、診療報酬も安定して得られるでしょう。
実際、リハビリをしっかり行っている整形外科では、来院頻度が倍増し、月間レセプト件数が1.5倍~2倍になるケースもあり、収益の柱としてのリハビリ部門の重要性は年々高まっています。
自由診療・特化型診療の導入
自由診療の導入も、保険診療に依存しないクリニック経営には欠かせない要素です。
整形外科領域で特に人気があるのは、再生医療(PRP療法など)や関節注射、ビタミン・にんにく注射などの注射系自由診療です。
また、スポーツ整形に特化した診療、筋膜リリース・体外衝撃波治療など専門性の高い施術を提供すれば、他院との差別化にもつながります。
自由診療は自費収益となるため利益率が高く、集患さえ成功すれば短期間での投資回収も見込めるのが大きなメリットです。
ただし、導入前には十分な市場調査と、スタッフへの教育・適切な料金設定が必要不可欠です。
地域医療連携・介護施設連携の強化
地域密着型の整形外科クリニックとしての信頼性を高めるには、内科や訪問診療医、介護施設、ケアマネジャーとの連携を強化することが極めて有効です。
特に、老健施設やデイサービス、グループホームなどと連携すれば、高齢患者の紹介・転院・再診のルートを確保できます。
また、通所リハビリや訪問リハビリへの発展も視野に入れると、収益源の多様化にもつながります。
医師会との関係を築いておくことで、地域の健康イベントや健診業務などに参加する機会も得られ、地域からの信頼を獲得しやすくなるのです。
以下の記事では、整形外科が開業に失敗する理由を解説しています。
まとめ

本記事では、整形外科の開業における基本的な流れや必要資金の内訳について解説しました。
さらに、物件の選び方、リハビリ併設や自由診療といった差別化戦略、さらに地域医療との連携まで、開業を成功に導くための実践的な情報を総合的に解説しました。
特に整形外科では、高齢化社会の進行とともに慢性疾患やリハビリのニーズが増加しています。
そのため、定期的な通院が期待できる患者層を確保できる点が大きな強みとなっています。
一方で、医療機器や内装への初期投資、人件費、集患対策など、開業前に入念な計画を立てなければ思わぬリスクを抱えることにもなりかねません。
今後、整形外科開業を目指す医師にとって重要なのは、「診療方針・立地・設備・採用・広報・収益モデル」などを一つ一つていねいに組み立てていくことです。
本記事を参考に、自身の理想とするクリニック像を明確にし、地域から信頼される整形外科クリニックの開業に向けて一歩ずつ進んでいきましょう












