埼玉県産婦人科医会では、新型コロナウイルス流行下における妊産婦の心のケアの取り組みとして、2020年5月からCLINICSを用いたオンライン相談窓口を開設している。
今回は参加した7医療機関のうち、越谷市立病院の産科・婦人科部長の西岡先生と助産師の大谷津氏にお話を伺った。
ーオンライン診療システムを活用した産婦人科医会の心のケア・オンライン相談が始まった経緯を教えてください。
西岡先生:新型コロナウイルスが流行する以前から、妊産婦に対するメンタルヘルスケアが非常に注目されており、ちょうど講習会などが全国に広まっている時期でした。
妊産婦さんは元々孤立しやすい。そこに新型コロナが流行したことで、妊産婦さんが外出を控えるということは容易に予想できましたし、更に孤立が深まってしまうのではないか、という懸念がありました。
そのような状況から、オンライン相談を取り入れることで、妊産婦さん・医療従事者の双方の感染リスクに配慮しつつ、妊産婦さんには気軽に相談をしてもらいたい、不安を解消してもらいたいという思いがありました。
ー元々妊産婦のメンタルヘルスケアが注目されていたところに、新型コロナウイルスによる流行が契機となったということなのですね。オンライン相談の取り組みが始まる前の2020年4月の感染拡大時には、どのような状況でしたか。
西岡先生:「ちょっとした発熱があるけどどうしたらいいですか」という電話相談は多かったと思います。受診した方がいいのか、家で待機した方がいいのか。
これは患者さんだけが悩む問題ではなく、医療者としても、来てもらった方がいいのか、それとも家で様子を見た方がいいのかという判断は悩ましいものでした。
新型コロナウイルス感染による発熱かわからない方が発熱外来に来ることで、かえって感染のリスクが高まる場合もありますし。当時は医療現場も混乱していましたし、患者・医療機関双方に混乱があったと思います。
ーそのような背景で開始された埼玉県産婦人科医会の妊産婦心のケアの取り組みについて教えてください。
西岡先生:埼玉県内で、周産期メンタルヘルスに関して訓練を受けたスタッフがいる施設を中心に、7つの医療機関(越谷市立病院、埼玉医科大学病院、埼玉医科大学総合医療センター、丸山記念病院、桜ヶ丘病院、かしわざき産婦人科、平田クリニック)で取り組みをスタートしました。
埼玉県内で妊婦検診を受けている方、分娩を予定されている方、産後で埼玉県に在住されている方であれば利用可能で、1回30分程度の相談をCLINICSで受け付けています。
ー導入前、オンライン診療に対してどのようなイメージをお持ちでしたか。
大谷津氏:最初お話しいただいた時は、システムがどのようなものか分からないので、自分がちゃんとシステムを動かせるのかという不安はありました。
実際は、メドレーの導入支援の担当者さんから、ビデオ通話を通じて一緒に話しながら手順をひとつずつ教えていただき、意外と簡単に操作できるということがわかりました。
今は、逆にオンラインをするのが楽しみなぐらいに成長しました。
ー始めるにあたり、どのような院内での準備をされたのでしょうか。
西岡先生:新型コロナに係る診察は、日頃やっている通常診療にプラスしてやらなければならず、新たな役割分担が必要ですね。
当初、院内でも誰がどう対応するかについて打ち合わせをしました。必ずしも医師に限定せず、助産師や看護師、臨床心理士など、周産期メンタルヘルスの知識がある、講習を受けた人を含めたチームとしてメディカルスタッフみんなで対応しよう、ということになりました。
元々、周産期メンタルヘルスが非常に注目されており、当院でも力を入れていたので、関連する研修や講習を受けたことがある助産師さんを中心に対応することになりました。
大谷津氏:担当スタッフは、日本産婦人科医会がおこなっている「母と子のメンタルヘルスケア研修」を自己学習というかたちで学びました。患者さんからの質問は多岐に渡りますが、当院では、妊娠中・産後・新型コロナに関する質問など、どのような質問に対しても各スタッフが対応できるようにみんなが勉強をしていました。
ー患者さんへの周知はどのようにされたのでしょうか。
西岡先生:オンライン相談を始めてみてわかったのは、利用する方の多くは産褥期の方でした。妊娠中は妊婦検診があり一定間隔で通院するので、何か心配事があっても通院のときに相談できますが、出産が終わり退院すると1ヶ月健診を最後に予約が無いので、相談できる環境が無くなってしまいます。
なので、当院では入院中分娩後の落ち着いた時に、看護師長が褥婦さんを一人ずつまわってパンフレットをお渡しして案内していました。あとは外来にポスターを貼ったり。
ー院内では、どのような役割分担で運用されたのでしょうか。
大谷津氏:予約の確認は、相談担当の助産師がしています。そこを起点に、診療情報室でも予約状況を共有できるようにしていました。
また、診療情報のない初診の方から相談が入ることもあるので、医事課とも連携し、初診の患者さんから相談予約が入った場合には、外来の助産師から医事課へ連絡してすぐに診察券番号を取得できるよう連携しました。
ー苦労されたことや困ったりした事はありましたか?
大谷津氏:現場としては、私たちは全くありませんでした。
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ーオンライン相談を利用した患者さんについて教えてください。
西岡先生:多い相談としては「上のお子様を連れて来院するのが大変」「コロナが心配なので来院を避けたい」と新型コロナに関連する相談もありましたが、分娩後育児に対して感じている不安や、辛い気持ちを相談したいと言ったものもありました。当院でお産された人の場合、お産を担当した助産師さんが一番話をしやすいという気持ちもあったのだと思います。
大谷津氏:相談内容としては、上の子との関わり方や、育児がちゃんとできているのかとか、子育てに自信がない、母乳についてなど育児全般です。当院以外で妊婦検診を受けている方から、無痛分娩に関しての質問もありました。
産後、急に精神的に不安定になってしまったお母さんから「赤ちゃんが可愛いと思えず、自分を責めてしまう」という相談がきたこともありました。
この場合は緊急を要すると判断し、担当医や心療内科にも相談の上、紹介状を書いていただきすぐに受診してもらいました。一週間後には不安が緩和されて、表情も明るくなっている姿を見ることができました。
ー相談内容がかなり多岐に渡っているのは、オンラインならではでしょうか。
西岡先生:そうですね。相談のために予約のない状態で当日受付で来院し、長時間待って相談するのは妊産婦にとってはかなり大変なことなので、オンラインで相談しやすい、というのはあると思います。
大谷津氏:利用した妊産婦さんからは、「普段から顔を知っているスタッフにオンラインで相談できるのは安心感がある」「相談しやすい」「自宅から楽な姿勢で聞けるのは便利」という声がありました。妊産婦さんも使ってみて初めて感じる快適さがあるのだと思います。
ー今回オンライン相談を実施してみて、オンライン診療を導入するメリットは何だと思われますか。
西岡先生:通院している患者さんや妊産婦さんがすぐに相談できるという事は、患者・医師双方に満足度が高く、信頼関係を深めることにつながると思います。
大谷津氏:どこにいても気軽に安心して相談できることだと思います。いまは感染リスクを避けるためにソーシャルディスタンスを取らないといけない。オンラインなら来院頻度や待ち時間を減らすこともできるし、生まれたばかりの赤ちゃんを連れて移動する負担も少なくなりますから。
西岡先生:初診の患者さんが会ったことのない医師やスタッフに相談するということには、まだハードルがあるのかなと思います。もっとオンライン診療が一般的に浸透すると、そういったことも広がってくるかもしれませんね。
ー患者さんとの信頼関係を深められるツールということですね。オンライン診療に対して、課題に感じていることがあればお伺いさせてください。
大谷津氏:今回オンライン相談は無料だったので、クレジットカード情報の入力に対して、個人情報なので抵抗感を持つ患者さんもいらっしゃいました。あとは、たまに相手側の通信環境で繋がりにくいことがあるのは、オンラインの仕方ない部分かなと思います。
システムの操作そのものは「開始する」というボタンも見やすくて分かりやすく、画面も綺麗で、音声も聞き取りやすいので満足しています。
ーありがとうございます。今後は、CLINICSをどのように活用していきたいと思われますか?
西岡先生:今後は診療としてどう活用できるか考えています。オンライン診察では身体所見が取れませんが、相談やカウンセリングの要素が多く含まれる診療では導入しやすいと感じています。
産婦人科診療の中でも、この診療ならできるというところがあるのでそういうところから取り組みたいと思っています。具体的には、産褥2週間健診や育児相談といった部分も、オンラインを導入しやすいと思っています。
また、出生前診断や遺伝カウンセリングの際、妊婦さんは検査があるので来院が必要ですが、旦那さんは仕事場からオンラインで参加する、ということもできると思っています。
今は病院に立ち入り制限があるので、ご家族が病院に来ることができないケースもあります。そのような場合に、妊婦さんは病院、旦那さんと上のお子さんは自宅からオンラインで、ということもできますよね。オンラインをうまく活用することで、どんどん診療の幅が広がっていくと思っています。
ー貴重なお話、ありがとうございました。
「越谷市立病院」概要
医療機関名:越谷市立病院
所在地:埼玉県越谷市東越谷10丁目32
TEL:048-965-2221
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