
電子カルテ情報共有サービスとは?開業医が押さえるべきポイントをわかりやすく解説

電子カルテ情報共有サービスは、2025年度中の本格運用を目標に、一部の地区ではすでに試験運用が始まっています。
一方で、電子カルテ情報共有サービスについて「詳しくはわからない」「自院でどのような対策をすべきなのかわからない」という開業医の先生も少なくありません。
当記事では、電子カルテ情報共有サービスの基本的な仕組みから、メリット、自院に導入するために知っておくべきポイントまで、幅広く解説します。
目次[非表示]
- 1.なぜ今電子カルテ情報共有サービスが注目されているのか
- 1.1.電子カルテ情報共有サービスとは
- 1.2.電子カルテ情報共有サービス導入で得られる診療報酬加算
- 1.2.1.医療DX推進体制整備加算の新設
- 1.2.2.医療情報取得加算(旧:体制整備加算)
- 1.2.3.生活習慣病管理料の見直し
- 2.電子カルテ情報共有サービス導入のメリット
- 2.1.患者にとってのメリット
- 2.2.医療機関にとってのメリット
- 3.電子カルテ情報共有サービス導入までの課題
- 3.1.電子カルテの導入率がまだ低い
- 3.2.システムの標準化(FHIR対応)が必要
- 3.3.導入コストと運用コストの負担
- 4.電子カルテ情報共有サービス導入で利用できる制度やシステム
- 4.1.IT導入補助金(経済産業省)
- 4.2.標準型電子カルテ
- 4.3.FHIRに対応しているクラウド型電子カルテ
- 5.まとめ
なぜ今電子カルテ情報共有サービスが注目されているのか

医療現場のデジタル化は、人口減少が続く日本においてより質の高い医療提供のために必要不可欠な流れとなっています。
特に、患者の医療情報を施設間でスムーズに連携させることの重要性は、以前から指摘されていました。
こうした背景のもと、国が主導して推進しているのが「電子カルテ情報共有サービス」です。
電子カルテ情報共有サービスは、医療機関が持つ診療情報を、必要な時に他の医療機関でも確認できるようにする仕組みです。
重複検査の抑制やより的確な診断・治療への貢献が期待されており、医療DXを具現化する取り組みの一つとして、大きな注目を集めています。
電子カルテ情報共有サービスとは

電子カルテ情報共有サービスとは、全国の医療機関や薬局などが、電子カルテ等に記録された診療情報を、安全なネットワークを通じて共有・閲覧できる仕組みのことで、政府が推進する医療DXの柱の1つです。
具体的には、「3文書6情報」と呼ばれる情報の標準化が進められているところです。3文書とは、以下の3種類の書類を指します。
- 診療情報提供書
- キー画像等を含む退院時サマリー
- 健康診断結果報告書
また、6情報とは電子カルテに記載される以下の情報のことです。
- 傷病名
- アレルギー情報
- 感染症情報
- 薬剤禁忌情報
- 検査情報(救急時に有用な検査や生活習慣病関連の検査)
- 処方情報
これらの情報が患者の同意のもと、スムーズに共有されることで、医療の質の向上や継続性の確保が期待されています。
本格運用に際しては猶予期間が設けられており、2026年5月31日までの経過措置期間中は、電子カルテ情報共有サービスを導入する予定であることをもって、「医療DX推進体制整備加算」の要件を満たすとみなされます。
具体的な診療報酬加算の内容や算定要件については、次に詳しく見ていきましょう。
電子カルテ情報共有サービス導入で得られる診療報酬加算
国は、医療DXを推進する医療機関を評価するため、2024年度の診療報酬改定において、加算措置の新設や、既存項目の改定を行いました。
ここでは、電子カルテ情報共有サービスの導入により算定が見込まれる主な診療報酬について解説します。
参考:令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)|厚生労働省
医療DX推進体制整備加算の新設
「医療DX推進体制整備加算」は、電子カルテ情報共有サービスへの対応を含め、クリニックにおける医療DX推進のための体制整備を評価する加算です。
主な算定要件は以下の通りです。
- オンライン資格確認システムを導入している
- 電子処方箋を導入している
- 電子カルテ情報共有サービスを運用できる体制が整備されている
- 加えて、院内におけるサイバーセキュリティ対策の実施や、関連する情報を院内掲示やホームページで公開することも求められます。
医療情報取得加算(旧:体制整備加算)
「医療情報取得加算」は、従来の「医療情報・システム基盤整備体制充実加算(体制整備加算)」が見直されたものです。
オンライン資格確認システムを通じて患者の薬剤情報や特定健診情報などを取得し、実際の診療に活用していることを評価します。
オンライン資格確認システムの活用は、電子カルテ情報共有サービスをスムーズに運用するうえでの基盤にもなります。
生活習慣病管理料の見直し
従来、生活習慣病管理料を算定するためには、療養計画書を紙媒体で発行・交付する必要がありました。
しかし2024年の改正にて、電子カルテ情報共有サービスを通じて治療計画に関する情報を連携できる場合は、紙媒体での療養計画書の発行・交付が省略可能となったのです。
医師やスタッフの事務作業負担が軽減されることで、患者への指導を充実させ、より質の高い医療が提供可能となります。
電子カルテ情報共有サービス導入のメリット

電子カルテ情報共有サービスの導入は、単に国の施策に対応するだけでなく、患者と医療機関の双方に具体的なメリットをもたらします。
ここでは、それぞれの立場から見た主なメリットを紹介します。
患者にとってのメリット
電子カルテ情報共有サービスを導入することで、患者の医療情報が複数の医療機関や薬局の間でスムーズに共有されるようになります。
紹介状や健康診断の結果、お薬手帳などを使って、患者自身が情報を伝える手間が大幅に軽減されます。
また、転居先や旅行先での急な体調不良、さらには災害時といった予期せぬ事態でも、過去の診療履歴やアレルギー情報などを医療現場で即座に参照できるため、より安全かつ適切な医療を受けることが可能になります。
重複投薬や不要な検査を防ぐことにもつながり、医療費の削減にも貢献が期待されます。
医療機関にとってのメリット
医療機関にとっても、電子カルテ情報共有サービスの導入により、多岐にわたるメリットが期待できます。
まず、救急搬送時や初診の患者様に対しても、過去の正確な診療情報を迅速に把握できるため、より的確な診断や治療計画の立案が可能になります。
また、他院からの紹介状の内容をデータで取り込めるようになれば、転記作業も不要になり、スタッフの業務負担も軽減できるでしょう。
紙ベースでの文書管理や保管スペースの確保といった手間がなくなるのも大きな利点です。
電子カルテ情報共有サービス導入までの課題
電子カルテ情報共有サービスの普及が拡大する一方で、システムの導入には課題も存在します。
特に開業医にとっては、費用や導入の手間が大きなハードルとなる可能性も考えられます。
ここでは、主に指摘されている3つの課題について解説していきます。
電子カルテの導入率がまだ低い
電子カルテ情報共有サービスを円滑に運用するには、各医療機関が電子カルテシステムを導入していることが大前提となります。
ところが、2023年時点での電子カルテ導入率は、病院で65.6%、一般診療所ではわずか55.0%にとどまっており、いまだ多くの施設が紙カルテを使用しているのが実情です。
このような現状では、情報共有サービスの恩恵を全国的に行き渡らせるのは困難です。
医療現場全体でのデジタル化の加速が求められており、全国医療情報プラットフォームの構築に向けた基盤整備が急務となっています。
システムの標準化(FHIR対応)が必要
電子カルテ情報共有サービスを実現するためには、医療機関ごとの電子カルテシステムが、国の定める標準規格「HL7 FHIR(ファイヤ)」に対応している必要があります。
FHIRは異なるシステム間での情報連携を円滑にするための共通仕様であり、診療情報の精度と即時性を高めるうえで不可欠な技術です。
そのため、導入時にはFHIRに準拠したシステム設計が求められます。
特に、独自仕様で構築された既存システムを利用している医療機関では、標準化への移行に向けた体制整備や技術的な見直しが必要となるでしょう。
導入コストと運用コストの負担
電子カルテ情報共有サービスに対応するには、システムの導入・更新に加えて、継続的な運用コストにも備える必要があります。
新たに電子カルテを導入するケースでは初期費用が、既存システムを更新する場合でも改修費や追加の保守費用が発生します。
FHIRを用いた情報連携では、外部ネットワークとの接続を前提とするため、強固なセキュリティ対策が不可欠です。ファイアウォールやアクセス制御の強化、運用監視などが求められ、それらの維持コストも考慮しなければなりません。
特に小規模医療機関にとっては大きな負担となる可能性があるため、IT導入補助金などの制度を活用することが現実的な選択肢です。
電子カルテ情報共有サービス導入で利用できる制度やシステム
猶予期間があるとはいえ、電子カルテ情報共有サービスへの対応は避けられません。費用や手間を抑えられる制度やシステムを活用し、スムーズな導入を目指しましょう。
ここでは、電子カルテ情報共有サービスを導入する際に利用できる制度やシステムを紹介します。
IT導入補助金(経済産業省)
経済産業省が実施する「IT導入補助金」は、中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際に活用できる支援制度です。
電子カルテシステムや関連ソフトウェアも、条件を満たせば補助対象となる場合があります。
たとえば「通常枠(1プロセス以上)」では、補助額は5万円〜150万円未満、補助率は従業員の賃上げ有無などにより「1/2以内」または「2/3以内」となります。
ただし、補助対象の経費や申請条件、補助率などは年度や公募枠によって変動するため、申請時には必ず最新情報を確認する必要があります。
なお、申請には事業計画の策定や手続きが必要になるため、ITベンダーや専門家と相談しながら準備を進めると安心です。
参考:IT導入補助金2025
標準型電子カルテ
国は電子カルテの普及をさらに加速させるため、安価な電子カルテシステム「標準型電子カルテ」の開発を進めています。
FHIR規格にも準拠しており、電子カルテの導入コストを抑えたい場合は検討してみると良いでしょう。
ただし、2027年頃に本格提供開始を予定しており、2025年時点ではまだ本格的な提供が開始されていない点には注意が必要です。
また、提供される機能が自院の運用に合致するかどうかも見極める必要があるでしょう。
FHIRに対応しているクラウド型電子カルテ
電子カルテ情報共有サービスの導入にあたって、紙カルテから電子カルテへの移行を検討している場合は、「FHIR」に対応したクラウド型電子カルテを選ぶのがおすすめです。
クラウド型であれば、オンプレミス型のように院内にサーバーを設置する必要がなく、初期費用を抑えやすいという利点があります。
また、多くのクラウド型電子カルテはFHIRへの対応が進んでおり、猶予期間内に導入すれば診療報酬加算の対象にもなります。
ただし、クラウド型電子カルテの機能やコストはメーカーによって大きく異なるため、自院のニーズや予算に応じて複数の製品を比較・検討することが重要です。
まとめ
電子カルテ情報共有サービスは、医療DXを推進し、患者中心の質の高い医療を実現させるための重要な取り組みです。
導入には課題もありますが、診療報酬上のメリットも用意されています。この記事を参考に、IT導入補助金のような支援制度や、FHIRに対応できるクラウド型電子カルテも視野に入れながら、計画的に対応していきましょう。












