失敗しないクリニック開業手順を徹底解説
いつの時代も「開業」は、医師のキャリアにおいて大きな選択肢の一つです。とはいえ、やみくもに開業することはできません。失敗しないためには、綿密な計画が不可欠でしょう。そこで今回は、クリニック開業にまつわる手順やノウハウを解説します。
この記事を読むと以下のことがわかります。
- クリニックを開業する時に考えるべきこと
- 開業までのスケジュール感
- 開業にあたって必要な業務
- クリニックを開業することのメリット
本記事ではクリニック開業について、ポイントを解説します。
クリニックを開業する時に考えるべきこと
開業を思い立ったら「なぜ開業をしたいのか」、「どのようなクリニックを作っていきたいのか」を考える必要があります。ここでは、どうしてこの2点を考えるべきなのかを説明するとともに、「専門特化してターゲットを絞る」ことの大切さも解説します。
「なぜ自分はクリニック開業を志すのか」という理由の明確化
開業への具体的な行動として、まずやらなければいけないのが「なぜ自分はクリニック開業を志すのか」です。
理由の明確化が重要なのは、医院の開業・経営の土台となる部分だからです。メインでやっていきたいことによって対象となる患者層も異なりますから、理由の明確化は開業地選びにおいても役立つことでしょう。
「どんなクリニックを作り上げたいか」というコンセプトづくり
開業医から開業を思い立った理由を聞くと、「理想の医療の追求」、「収入」、「やりがい」、「労働環境」など、本当にさまざまです。
参考:開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査 | 社団法人 日本医師会
しかし、そのどれもをひとつのクリニックで網羅することは困難でしょう。コンセプトがあれば判断に迷いが生じないだけではなく、優先順位が明確になるので、判断する際の指針になるでしょう。
専門特化してターゲットを絞る
診療方針や経営基本計画の作成自体は難易度が高いものではありませんが、開業医が多い日本において、専門に特化していない「どこにでもある」ようなクリニックでは開業後振るわず、失敗してしまう可能性があります。
失敗を避けるため、上記で考えたコンセプトをもとに、できるだけ具体的に診療方針を考えましょう。専門特化してターゲットを絞ることで、開業後の成功に繋がっていきます。
開業までのスケジュール感
開業までは、2年以上前から準備を始めることがほとんどです。しかし、クリニックによってスケジュールはさまざまに変わっていくものでもあります。
開業までのスケジュールを考えるときは、時期を優先するのか、納得のいく物件探しを優先するか、自らの希望に応じてスケジュールを作るようにしましょう。
「来年の3月までに必ず開業したい」ということであれば、多少物件についての妥協も必要になるかもしれません。逆に、「どうしても物件・場所にこだわりたい」という場合は、開業時期を少し遅らせることも必要になるでしょう。
開業にあたって必要な業務
「どのような患者さんに、何を、どのように」医療を提供するか決まったら、開業にあたって必要な業務をこなしていきます。必要な業務の手順は、以下の4つです。
- 開業場所の選定
- 資金調達
- 行政手続き
- スタッフの採用
それぞれについて詳しく見ていきます。
(1) 開業場所の選定
開業地の選定は、そのまま集客にも直結します。そのため、まずは、「開業地の選定」からスタートしましょう。開業場所選定において、大切なポイントが4つあります。
- 開業場所の形態を決める:医院の入居先(一戸建て/ビルのテナント/医療モール など)
- エリアの希望を考える:(自宅からの近さ/自院の専門科目の医院が少ない地域)
- 希望エリアの人口・年齢構成を確認する(開業地周辺の人口が多いか少ないか/年齢構成)
- 物件(土地)が妥当か検討する(現地調査/物件データの確認)
理想の条件にこだわると、それだけいい物件は見つかりにくくなります。条件の優先順位をはっきりさせ、選定の際には、優先順位に沿って判断するようにしましょう。
(2) 資金調達の段取りをつける
引っ越し、物件探し、内装、機械購入などには当然お金が必要です。開業にあたってはほとんどのクリニックが銀行から融資を受けることになるでしょう。
融資を受ける際は、金融機関の担当者に収入の見込みや経営計画を示した「事業計画書」を提出するのが一般的です。
「事業計画書」とは、以下の3項目をまとめた書類です。
- 何にどれだけお金をかける予定なのか
- その資金をどう調達する予定なのか
- 開業後の収支の見積もり・経営計画
銀行に提出するだけでなく、今後の経営の指針とするためにも非常に重要になるので、しっかり作っておくのがいいでしょう。
(3) 行政手続き
クリニックの開業においては、保健所に出す「診療所開設届」や厚生局に出す「保険医療機関指定申請」など、さまざまな行政機関への届け出が必要です。
届出自体は難しいものではありません。しかし、提出しないと医院の開業はできませんので、各機関に事前相談の上、すみやかに提出しましょう。
(4)スタッフの採用
どんな人を採用するかは、新規開業医院にとって非常に重要なポイントです。看護師はどの医療機関でも慢性的に不足状態が続いていますので、採用に悩む医療機関が多いようです。
元の勤め先から一緒に来てくれる看護師がいれば心強いですが、そうでない場合もあります。採用時は経験のない新人だけでなく、1人は経験豊富な看護師を確保しておきたいところです。
クリニック開業することのメリット
開業するにあたって大変なことも多いですが、その分、勤務医時代には得られないメリットが期待できます。クリニックの開業は、ハードな一方でリターンも大きいことが魅力のひとつなのです。ここでは、クリニック開業することのメリットを3つ紹介します。
収入がアップする
勤務医の開業医とは、給与と内容や性質が異なります。
- 勤務医:給与収入
- 開業医:事業収入=「収入」-(「経費」+「事業借入の返済」)
開業医の事業収入の場合、報酬の他、事業借入の返済、病気などで休業した場合の所得保障があります。そのため、勤務医と開業医の収入を比較すると、統計では約1.8倍の差があるといわれています。
参考:第22回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 | 中央社会保険医療協議会
自由に仕事ができる
自身の裁量で自由に仕事ができることは、クリニックを開業することの大きなメリットです。人間関係の煩わしさから解放され、自分の地元や好きなエリア・周りに競合が少ない土地などを自由に選択できることは、勤務医にはない特典と言えるでしょう。
自分なりのスタイルでしっかり患者と向き合える
開業すると診療だけでなく経営もしなければいけませんから、勤務医時代以上のハードワークになります。
しかし、開業後は今までやりたかったことをやれるようになります。自分なりのスタイルでしっかり患者と向き合えることは、開業医にしか味わえないメリットなのです。
手順を知って失敗しないクリニック開業を
ここまで、診療方針作りから開業地の選定、事業計画の作成、資金面など、開業までの流れを紹介してきました。
開業自体は「始まり」であって「ゴール」ではありません。クリニックを開業して自分の理想とする医療行為を実践していけることのメリットとデメリットは表裏一体といえるでしょう。